エピローグ



恋人へ


僕は夢を追った。絵を描くことでしか、自分の存在を証明できないと思っていた。けれど本当に大切だったのは、君と出会えたこと、そしてホーリーナイトと過ごした日々だった。

彼はただの黒猫じゃない。孤独も痛みも知りながら、僕のそばで支え続けてくれた。どうか信じてほしい。彼は僕の親友であり、僕の聖なる光だった。


もし僕が帰れなかったら、彼を嫌わないでやってほしい。彼の名はホーリーナイト。君のもとで光になれますように。


――夢を見て飛び出した、僕の帰りを待つ恋人へ。



恋人は震える指で手紙を閉じ、頬に伝う涙を拭うことも忘れて立ち尽くした。

庭に眠る名は「Holy Night」。そこにそっと「L」を添えた。Holy Light。

雪の下でも、その文字は静かに輝き、夜の空に溶けるように温かさを放っていた。



光に満ちた新しい世界。粉雪のように舞う光が、丘や森、遠くの山々を淡く染める。少年はスケッチブックを抱え、足元の光に導かれるように歩いていた。

そして、視線の先に――あの黒い影があった。


ホーリーナイト――しっぽを高く掲げ、毛並みは光を含んで輝き、少年を見つめる目には、再会の喜びと深い信頼が宿っていた。


少年は胸が熱くなるのを感じながら駆け出す。

「ホーリーナイト!」


黒猫も躊躇わずに跳ねるように駆け寄り、雪の粒を蹴散らしながら少年の足元にすり寄る。

二人の間には、言葉以上の想いが交わされる。孤独も、痛みも、過去の涙も、すべて消え去った。


風が二人を包み込み、舞い落ちる雪は光の粉のように煌めいた。

少年の瞳に映る黒猫は、かつての小さな守り手ではなく、無限の光を宿す親友となっていた。

その瞬間、胸の奥にずっとあった切なさが、一気に温かい喜びに変わるのを少年は感じた。


遠く離れた現実の庭では、恋人が窓の外をそっと見つめる。

胸には、少年と黒猫が再び共に歩き出した瞬間の温もりが、確かに灯っていた。

手紙に綴られた想いと、永遠に変わらぬ友情――それが、彼女の胸にも優しく届いたのだ。


少年はスケッチブックを抱え、黒猫はしっぽを高く掲げ、二人は光と雪の世界を歩き出す。

笑い声は風に溶け、光の道を進む二人の足跡は、二度と途切れることなく続く――

互いを信じ、互いを守る約束を胸に、永遠の親友として。

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雪に眠る騎士 逢樺 @Mii628

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