第22話 赤い龍

 赤い龍は蛇のように長い身体を、大きな窓に頭を覗かせるようにして中にいる討伐団を見つめた。討伐団の団員たちは、

「ひえっ!新しい魔物か!?もう戦力が持たないぞ!?」

と盾と剣を構えたが、アラン団長は違った。窓枠から顔を覗かせる赤い龍に対して剣を収め、ひざまづいた。すると赤い龍は、

「其方が赤錆か、この塔はいつから牛の棲家になったのだ?」

と言葉を発した。団員たちは、

「魔物がしゃべった!?」

と困惑していたが、アラン団長は、

「瑞獣たる赤龍さま、この塔を牛頭に占拠されたのは、我らが北方部族の恥であります。しかし、勇敢なる男たちの手により、この塔を取り返しました。何卒ご容赦くださいませ。」

瑞獣ー。平穏の象徴とされ、戦乱のない平和な時代をもたらせてくれる伝説の生き物だ。赤い龍はその手に緑色の玉を持っている。そうかー。この塔は、

「200年に一度貴方様をお迎えするのが、我々北方部族の伝統でありました。しかし、150年前の赤錆が、この塔を魔物どもに占拠されて以来、我々は南に逃げ、城壁を築き、北方部族の棲家を取り戻そうと魔物と戦っておりました。」

アラン団長は続ける。

「しかし、魔物の勢力は衰えることを知らず、我々北方部族の男たちも減ってしまいました。どうかお願いがございます。赤龍様、貴方の使う聖なる炎をもって、北方に潜む魔物どもを焼き尽くしていただけないでしょうか?」

アラン団長は懐から緑宝石で出来た玉を取り出した。

「これがお納めする玉でございます。」

赤い龍は緑宝石の玉を受け取り、アラン団長に問う。

「我の炎は、其方らの棲家も焼き尽くしてしまうがそれでも良いか?」

アラン団長が答える、

「あそこには我々の先祖が眠っております。魔物に占拠されたままでは、先祖たちが浮かばれませぬ。村はまた作れば良いのです。」

赤い龍はゆっくりと頷き。

「赤錆、其方の願いしかと聞き入れた。ではまずそこの悪しき剣士を燃やして見せよう。」

アラン団長がはっと振り返る前に、赤い龍が炎を吐いた。炎は赤い炎だったが、白い光を纏っていた。その炎はサイラスの身体にまとわりついた。

「サイラス!」

アラン団長が急いで駆けつける。赤い龍は、

「まずはこの塔に悪しきものが存在してはならぬ。そこの剣士、其方の心に陰が見える。」

サイラスは白い光を纏った炎を全身に浴びた。炎はサイラスの全身を包んで、サイラスの身体は火柱のように燃え上がった。サイラスは炎を振り払おうと必死にもがき、のたうち回った。サイラスは、

「なぜ俺を…うぅ…うわぁ熱い!」

と叫んでいた。アラン団長が駆け寄り、サイラスを窓の外に蹴り飛ばした。

「あとはドミニクに託そう。」

サイラスは炎を纏ったまま8階から放り出された。赤い龍は皆の動揺をよそに、

「金の塔は清められた。赤錆、願いは聞き届けた。我は其方らの故郷を焼き尽くす。」

と言って、天高く飛んで行った。

後に灰色の城には、伝説の赤龍が北方部族の村一帯をその炎で焼き尽くしたという報告があがった。あたり一面焦土と化し、そこにいた魔族もろとも灰と化した。焼け跡には何も残らず、草の一本も無かったとの報告だった。

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