第17話 討伐団の作戦
金の塔は元は北方部族が建立した塔である。北方部族が信仰する宗教に基づいて建てられた。赤色は北方部族にとっては力を表す。赤い色は血の色、力の大きさを表すのだ。緑色のモザイクタイルも北方部族の建造物によく使われる。この緑色は緑宝石と呼ばれる宝石が使われる。この土地では緑宝石という宝石が豊富に採れる、山間部に位置し、硬い岩盤の多いこの地方の名産なのだ。大きな緑宝石はそのまま宝石として使われるが、細かい宝石は溶かしてタイルに加工する。岩盤には鉄鉱石も多く含まれる。緑宝石と一緒に溶かすと、鉄鉱石と混じり合い、光沢のある光り輝くタイルが出来るのである。鉄鉱石と宝石の割合が異なるので、一枚ずつ異なったモザイク状の模様が現れる。赤の反対色は緑である。赤色が力を表すなら、緑色は優しさを表している。赤色は男性性を表し、緑色は女性性を表しているのだ。緑色というのもまた北方部族にとって大切にしてきた文化なのである。頂上に飾られた金色のひょうたんも北方部族にとって貴重な水を貯める水筒を表している。金色のひょうたんは富の象徴、この塔は北方部族の豪族が富と繁栄を祈願した塔なのである。
討伐団が金の塔に到着した。先ほどまでの牛頭はいない。金の塔は少し靄がかかって、先端の金のひょうたんが輝いているのがかろうじてわかる。8階建ての建物に見えるが、近づくと普通の8階建てよりも大きく見える。1つの階層が大きく造られている。上から見て8角形の形をしているが、石段で出来た入り口が4つに、門は4つ。この塔が魔物の巣窟になっているのだそうだ。アラン団長が討伐団に作戦を伝える、
「この塔が魔物の本拠地であると報告があった。理由はこの塔の構造にある。4つの門があるが、このうちの3つは偽物である。本物は1つしかない。本物を引けば2階へ上れる。だが2階にも同様に4つの門があり、それぞれ階段に繋がっているが、このうち3つは偽物である。偽物を引けば、そこにあるのは落とし穴だ。塔から落とされてしまう。最上階まで上るにはこれらを全て確かめなければならない。正解を知っていた北方部族は皆魔族に殺されてしまった。我らが討伐団は団員総当たりでこの塔の最上階を目指す。多少の犠牲を伴うだろう。だが、北方の魔族の殲滅は民草にとって必須である。」
討伐団にどよめきが起こる。もし間違いを引いてしまったら、塔から落とされることになるのだ。2階くらいならまだ怪我をしなくてよさそうだが、この塔は8階建てである。3階くらいからでも落ちたらただではすまない。それが8階から落ちたら…。
「勇敢なものが先頭を行け。案ずるな、治療班を1階にて待機させる、ドミニクお前もだ。」
なるほど、このためにドミニクを連れてきたのか。確かにこの作戦には犠牲が伴う。ドミニクの力があれば、被害を抑えることができるはずだ。
「この塔を中心に牛頭の被害が多数報告されている。最上階に牛頭の親玉がいるはずだ。持久戦になるが我々討伐団が滅ぼさなければ、魔族をさらに南下させることになる。ここで食い止めるのが我々の使命である。」
討伐団の1人が提案する。
「大楯と槍は置いていこう。兵装は軽くていい。1階を補給地として兵站を担う。」
さすがは歴戦の討伐団の面々だ、覚悟は決まったようだ。討伐団の1人がドミニクの肩を叩いた。
「なぁに、ドミニクがいたら8階から落ちても平気さ!傷は癒えても、落ちた瞬間の痛みは取り除けねえがな!うぅー怖えな!」
そうだそうだと団員たちが笑いだした。
「頼むぜドミニク!安心して飛び降りるからな!」
なんとも勇敢な団員たちであろうか。皆の覚悟は決まったようだ。皆がドミニクの肩をバンバン叩く、ドミニクは戸惑いと緊張、自分の役割の大きさに固くなりながら、微笑した。この作戦はドミニクの存在がなければ成立しないだろう。そうでなければ誰も先頭を行きたくはない。いくら勇敢な討伐団でも捨て石になるのはごめんだろう。ドミニクは皆に、
「力の限り治療します!皆さん思いっきり飛び降りてください!」
と鼓舞をした。団員たちはドミニクの言葉に大笑いをし、皆が兵装を整理しだした。出来るだけ身軽になるためだ。先程のドミニクの言葉も覚悟を決めた証であろう。だがドミニクの治療にも体力の限界はある。さっきあれほど疲弊していたのだ。戦いが長引けばこの作戦は破綻し、敗走することになる。疲弊した兵力に追撃を受ければ、全滅だってありえる。アラン団長の言う通り、これは討伐団の持久戦であるとともに、ドミニクにとっての持久戦なのだ。
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