第5話

 図書館で時間をつぶしていると校内放送が流れる。


「本日の文化祭は只今17時をもって終了です。在校生の皆さんは18時からの後夜祭の準備をお願いします」


もうそろそろ帰ろうか⋯⋯。


図書館を出て帰ろうとすると向こうから昨日のヤンキーたちが歩いてくる。ボクは近くのトイレに駆け込んで時間をつぶすことにした。


後夜祭は始まり、今は18時30分すぎ。ボクは意を決してトイレを出て帰宅の途についた。


帰宅って言っても定食屋に寄るんだけどね。


店に入るとオバサンがいた。


なんだよ。

お姉さんじゃないのか⋯⋯。


「日替わり定食で」


オバサンはボクの言葉も聞かずにスマホを持って店の奥に駆け出して行った。


なんだよ。

感じ悪いな。

一応、ボクも客なんだけど。


マスターもこちらをチラチラ見ているが一向に日替わり定食を作る気配がない。


ん、オバサン、材料買いにいったな。

言ってくれれば、違うの頼んだのに。


ボクがそう思っていると、店の扉が乱暴に開けられる。ボクの視線の先には息をぜいぜいさせた小林さん。彼女はおもむろにボクの手を取って外に飛び出す。


「さくら頑張れ!」


オバサンの声が後ろから聞こえる。


小林さんがなんで?


「小林さん、小林さん、何があったの?」


ボクの言葉を聞かずに小林さんはボクの手を取って必死に学校へと走っていく。


小林さんの行き先は後夜祭のキャンプファイヤーだった。でも、ボクたちが校庭にたどり着いた時には後夜祭は終わって撤収作業が行われていた。


小林さんはその場にしゃがみ込んで両手で顔を覆いながらわんわん泣いている。


ボクには何がなんだかわからない⋯⋯。


小林さんは立ち上がり、振り返ってボクと向き合う。真っ暗で彼女の表情は見れない。


「私は橋本龍之介君がだいしゅき!」


えっ?


その瞬間、月を隠していた雲が流れていき、月明かりが小林さんを幻想的に照らしていく。


ボクは⋯⋯。

ボクは一体今まで何を見てたんだ!


 あれはちょうど1年前の文化祭。ボクはクラスに馴染めずに、クラスの出し物に参加せずにポプラ並木で昼寝をしていた。


「どうしたの? こんなとこで。文化祭って楽しいよ」


女性がボクの昼寝を邪魔してきた。


「それはクラスに馴染めている奴の場合でしょ。ボクみたいなハブられ者には文化祭なんて拷問みたいなもんだよ」


「そう? それはまだ君が出逢っていないだけだからだよ」


「誰に?」


「運命の女だよ。橋本龍之介君⋯⋯」


彼女がそう言った瞬間にボクは目を覚ました。


ボクはその幻影を定食屋のお姉さんに求めた。うろ覚えだが、その幻影とお姉さんは瓜二つだったからだ。

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