第4話
文化祭初日の午前中、南さんに呼び出された。
セリフの最終確認をしたいのに⋯⋯。
「あのさ、今日あたしの昔の友達が来てんだよ。お前、気づいても何も言うなよ。顔に出すのもダメだからな。やったら殺すぞ!」
ボクは怖くなって何度も頷いた。
土曜日は午後1回だけの開演、日曜日は午前と午後の1回づつの開演、つまり合計3回。教室を使う演劇のため、お客さんは1回あたり20人くらい。
午後2時、初演が始まった。始まった直後にアクシデントが起きた。小林さんのセリフが台本6ページ後ろのセリフなのだ。始まったばかりでボクも動揺しているが幕の後ろにいる南さんからはそのまま進めろの指示がとぶ。
そのままってどっちだよ?
ボクは小林さんのセリフを無視してセリフを続けた。どうやらそれが正解だったようだ。
それ以降は何事もなく演技を終えた。閉演後、小林さんは感極まって泣き崩れてしまった。ボクが彼女に駆け寄っていくと小林さんはボクに思いっきり抱きついてきてボクの胸に思いっきり顔を埋めた。
小林さんは顔をボクの胸から離した瞬間、両手で押さえて教室の外に駆け出していった。
恥ずかしかった?
あの小林さんが?
なんだ、この胸のあたりの汚れは?
その後、ボクは校舎をふらふらと散策する。うちの高校の文化祭は飲食物の提供は禁止されているため見るだけ。しかも、陰キャ1人ではどうにもならない。そんな時、見知らぬ後輩の女の子から声を掛けられた。
「橋本先輩、ちょっといいですか?」
「なんですか?」
「さっきの演劇見ました。すっごく良かったです。ひょっとして明日アレやるんですか?」
アレ?
「もちろんやるよ。期待しててね」
「頑張ってください。応援しています」
彼女はそう言って立ち去った。
アレって何だ?
ボクはお腹がすいたので学食に立ち寄る。
ん、アイツら?
窓際でタバコを吸いながらビールを片手に騒いでいる男女数人。夏祭りの時に南さんと一緒にいたヤンキーたちだ。ボクは知らない顔をして一番遠い席へ座ってラーメンをすすった。誰かがボクの隣の席に座る。
「お前、さっき言ったことがわかってねえのか」
南さんが小声でボクを脅す。
怖い。
「いや、昼めし食ってないんで⋯⋯」
「外で食ってこいよ」
どうやってもボクは邪魔らしい。
ボクはラーメンを最後まで食べずに席を立つ。どうせ今日は定食屋のお姉さんに用があるんだ。いつもの定食屋はうちの高校から駅に向かって5分くらいのところにある。だから、毎日昼食で行ってもいいのだが、残念ながら平日の昼どきはお姉さんがいない。つまり、行っても仕方ないのだ。その後、図書館によって時間をつぶした。
もうそろそろお姉さんいるかな。
いつもの定食屋に行くとお姉さんが接客していた。
「お姉さん、ちょっといいですか?」
ボクはお姉さんに文化祭のパンフレットを差し出した。
「ボク、今回クラスの出し物の演劇で主役やってるんですよ。是非見に来てください」
うわっ、耳まで熱い。
「10時と14時かぁ⋯⋯。ちょっと時間的に無理かな」
かなり残念!
「ごめんなさい。無理言って」
「こちらこそ、ごめんね。頑張ってね」
そうだよね、ボクなんか⋯⋯。
その日の夜。ボクは何気なく机の鍵付きの引出しを見ていた。確か不思議な日記帳をしまったはずだ。あれから1ヶ月以上経過している。どこまで記載が勝手に進んでいるか気になる。ボクは緊張しながら引出しの鍵を開ける。
ん、なんかこの引出し軽いな?
引出しを開けた瞬間、ボクは目を疑った。日記帳が入っていないのだ。
掃除のときに母さんが勝手に開けた?
いや、鍵はボクが持ってたんだからそれはない。
そうだ。
ボクは夢を見てたんだ。
見知らぬ白紙の日記帳がカバンに入っていて、後日それを見たら文字が記載されていた。
夢だ。
そんなことあるかい!
翌日、2回の演劇は無事大盛況のまま終わった。最終回の閉演後にも小林さんに抱きつかれた。
ボクにはお姉さんがいるからあまりくっつかないでほしいんだけど⋯⋯。
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