2 次期当主は私!side メルバ

 side メルバ

 

(算術? そんなの、できなくたって困らないわ。だって、お買い物のお金を払うのは執事がやってくれる。地理や歴史? 日常生活で必要ないじゃない! もう、うんざりよ)

 

 でもお父様は「学問は大切だ」とか言って、家庭教師をつけてくれた。お姉様は午前中で、私は午後に授業がある。お姉様と一緒に勉強するなんてまっぴらだから、別々に受けさせてと言ったのは私だ。

 

「お母様。勉強なんてうんざりよ。あの家庭教師はすごく厳しいし、前日の内容を必ず試験するのよ……もう耐えられないわ。試験の結果はさんざんだし、お父様に知られたら、怒られるわ)

「そうね、旦那様に見られたらまずいわねぇ……あぁ、良いことを思いついたわ。お母様に任せておきなさい」

 

(あぁ、良かった。お母様って本当に頼りになるわ。私が頑張らなくても優秀な令嬢でいられる方法を思いついたのね! やったぁーー!)

 

 その結果、お姉様が解いた答案用紙は、家庭教師の手で私の成果としてお父様に報告された。代わりに、私が書いた間違いだらけの答案用紙は、お姉様のものとしてお父様に提出される。


 お姉様は私よりひとつ上。でも、学園に通う前の基礎教育なら、一歳差など大した違いではない。だから私たちは同じ家庭教師のもとで、同じ授業を受けている。そのおかげで、お姉様が解いた答案を私のものとして利用できた。


(ふふっ。得しちゃったぁ。お母様って頭がいいわ)


 最初、家庭教師は答案用紙をすり替えて、お父様に報告することを渋っていた。けれど、お母様が「言うことを聞かないなら辞めさせるわよ」って言ったら、あっさり態度を変えたのだ。結局、家庭教師なんてお母様の言いなりなのよ。だって、この屋敷のことは全部お母様が任されているんだから。


 だから私は、授業なんてもう真面目に受ける気はなくなった。家庭教師がどれだけ必死に授業をして、私に試験を真面目に受けさせようとしても、私は白紙を出したり落書きをして誤魔化したり――好き放題にサボってやった。だってどうせ、お姉様の答案が私の手柄になるんだもの。お姉様の努力も才能も、全部私のものになるのだから、何をしたって関係ないでしょう?


 お父様は細かいことなんて気にしない。筆跡を比べることもなければ、疑うことすらない。だから私は安心して胸を張っていられた。


 そしてお父様は、嬉しい宣言をしてくれた。

「カーク侯爵家の未来を託すのは、メルバに決めた!」


(やったぁ! まぁ、当然よね。だって私はお父様に愛されているのだから)


 生まれてきたせいで母親を死なせた――そんな不吉な子がお姉様。

 お父様が憎むのも当然のこと。

 この家の令嬢は私だけだわ。次の当主にふさわしいのも、もちろん私だ。


 お姉様? あんなの、最初からいなかったのと同じ。どうせ誰からも愛されるはずないんだから!

 

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