犬にはわからなかった、別れの気配。

野良犬の視点を通して、人間とのささやかな関係と、時代の流れの中で訪れる別れを描いた物語です。
語り手である野良犬は、言葉を持たない存在でありながら、出会った一人の青年との交流を通して、少しずつ感情のようなものを育んでいきます。

青年が召集令状を手に入れた場面では、彼の喜びと希望が語られますが、その先にある不穏な予感が静かに漂います。
犬にはそれが理解できないまま、ただ「きっと帰る」と言い残した青年を待ち続けます。 季節が巡っても、彼は戻らず、犬はようやく「もう会えないのかもしれない」と思い至ります。
この作品の魅力は、犬の視点だからこそ描ける「わからなさ」。
人間の事情や感情を完全には理解できない存在が、それでも誰かを待ち、思い続ける姿に、余韻が残ります。
語り口は淡々としていながらも、人に深く寄り添うお話でした。