舞台の終わり
エルクリッドとリリルの戦いが終わり勝敗が決した後に、倒れた二人の手当と看護を兼ねてノヴァ達もリリルの城へ招かれそのまま一夜を過ごす。
もし敗れた時は仲間共々丁重にもてなすように、とリリルが手配してくれていた事もあり興奮冷めやまぬ内に案内され、代わりとしてエルクリッドはリリルの私室にて休む事となる。
すーすーと寝息を立てて眠るエルクリッドの横でリリルもまた同じように眠っていたが、部屋に入ってくる者の気配を察して目を開け身体を起こしやってきたタラゼドを見てため息をつく。
「なんだお前か……他の者ならまだ良かったものを……」
「見事な戦いでしたリリル様。手当は済んでいますが完全とは言えないので念の為に」
まぁ良いとリリルはするりと服を脱いで肢体を晒し、まだ塞がりきっていない傷を触りながら改めて激しい戦いをしたのを思い返しながら、近くに来てかざした手から緑の光放つタラゼドの治療を受ける。
「お主は色香に酔う事がないからつまらぬ……少しは欲情して貰わねば妾も落ち込む」
「そうやって油断させて既婚者を寝取って愛人関係を強引に成立させましたからね、あなた様は」
「……あの男が妾をときめかせるのが悪い」
ふんっとそっぽを向いて拗ねるような仕草を見せるリリルにタラゼドは苦笑しつつも治療を続け、全身の傷を塞ぎ終えると手を引きリリルも服を軽く羽織り足を組んで座ってエルクリッドへ目を向けた。
「これ程強くなっているとはの……全く、大した娘だ……」
えぇ、とタラゼドも答えながらエルクリッドの安らかな寝顔に安堵し、それを横目で見ていたリリルはそういう趣味かと意味深に言い放つと、タラゼドはすぐに咳払いをし眼鏡の位置を直す。
「なんじゃお前はエルクリッドに興味があるのか、年下好みはまぁ良いが……今なら手をつける良い機会だぞ? 妾も手伝ってやろうか? ん?」
「全てを否定、はしません。確かに彼女に惹かれるものはありますが、それが愛しさなのかはわかりません……ただ……」
「ただ、なんじゃ?」
「エルクリッドさんの姿を見て、励まされたり、何かをしたいと思うのです。心の底から」
からかいに対して冷静な態度を貫くタラゼドだが、やや早口な事から少しは取り乱している事や、言葉に嘘偽りない事をリリルは感じそうかと一言答えながらエルクリッドをそっと撫でてやり、彼女が寝ながら笑みを浮かべたように見えて静かに微笑む。
人とエルフの血を持つ、火の夢の欠片から作られ生まれた少女。まっすぐで喜怒哀楽はっきりしながらも、優れた才能を持つリスナー。
そんな彼女を見ながら、リリルはある事をタラゼドへと語る。
「妖魔とは、本来はエルフを指す隠語であった。あ奴らは他の種族と交わっても同族を産み落とす……故に他の者から惹かれるように元々できていて、無意識に誘惑に陥っているという」
「エルクリッドさんも、同じ、と?」
「そこまではあえては言わぬ、だが何かをしたいというその思い……それが己のものであると断言できるまでは手を出すなよ? 愛欲に溺れ破滅した者は数多見てきたからな……」
妖魔はエルフの隠語、その意味合いはタラゼドも察しがつきリリルの忠告にわかっていますと答えつつ、エルクリッドが安心して眠る姿を改めて見つめ、だがすぐにリリルがしっしっと手で払うような仕草をしたので苦笑しつつ一礼し部屋を出ていく。
それを見てからリリルもベッドに横たわりながらエルクリッドに寄り添い、無防備すぎる彼女を愛でるように触りつつ身を寄せた。
「エルクリッド……これから先の相手は妾と同等かそれ以上の者達が待ち受ける。己の運命を乗り越えたお主ならばと思えども……いや、今はゆるりと休め、ここでは妾が守ってやるからの」
自分の秘密を知り乗り越えたエルクリッドの可能性を思いながらリリルは先行きの不安を感じ、だが今はと切り替え目を瞑る。
妖魔の舞台は終わり夜は、明日までの僅かな安らぎに包まれ静寂を告げていた。
To the next story……
星彩の召喚札師Ⅸ くいんもわ @quin-mowa
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