満身創痍に闘志滾る
地を蹴りディオンが駆け抜け、影となり平面状態のウラナへ魔槍を繰り出す。が、地面に刺さりこそすれど手応えはなく、するりと抜けるようにウラナは移動しディオンへ近づいた為に素早く離脱する。
入れ替わるようにローズが剣を振るって光の刃を放ちウラナを切り裂くも、沈むように刃は消え去っていく。
(スペルが駄目なら魔法も無効、そして魔力由来の攻撃も同じ……ならば何故先程は魔槍の攻撃を避けた?)
ローズの脳裏に浮かぶ疑問はリオやシェダ、そして何よりディオン自身が考えていた。
魔槍オーディン、かつては聖槍だったものが呪いにより変化した武器。ディオンがその身に呪いを受け続ける事で引き受け、祖国を離れる事で時間をかけその力を己のものとしたものの、未だ呪いは消えずにいる。
そして何より、オーディン自体が未だディオンを認めていないと、本人が何よりわかっている事だ。
(……考えていても仕方ない、今は、戦わねばならない)
数多の戦場を駆け抜けて来た。同じように悩み、考え、相手の策略を予想しながらも止まらずに戦い抜いて来た。
今も同じとディオンは冷静沈着に魔槍を構える。静かに息を吐きながら黒き雷を纏わせ、魔槍の切っ先に光が宿る。
(
魔槍の雷がより激しく音を立てながら数を増しディオンの意思に呼応していく。単純な防御力もウラナにはあり、捉えたとしても貫けるかはまた別の問題だ。
またスペルが通じない事から、ツールでの攻め手へとエルクリッド達も切り替えカードを抜く。
「ツール使用、絞蛇の縄!」
「ツール使用、羽虫取りの粗網!」
エルクリッド、シェダとツールを使用し、大蛇の如きぬるっとした感触の太く長い縄が地面ごとウラナを絞めあげ、その上からバサッと大網が放たれウラナを捕らえた。
しかし、それらは本来旅において使うもので戦闘用ではなく、当然ウラナには力づくで千切られてしまう。だが足止めとしては十分であり魔槍の雷撃を最大限まで蓄えたディオンがウラナの背後へ移動し攻撃態勢へ、それを察したウラナが向きを変えたのに合わせローズが挟撃に向かう。
「リオ!」
「ツール使用ディバインアンクル!」
ローズが剣を振るって放たれる光が形を変えて弧を描く拘束具となり、影のウラナへとずしっとのしかかりそのままガチャンと音を立てて地面諸共動きを縛り付ける。
それをずぶずぶとウラナは影へと呑み込みはじめこそすれど、スペルの時より遥かに遅くディオンの攻撃するには十分すぎた。
影の位置に気をつけながらディオンが跳び上がって攻撃を繰り出さんとしたその時、一瞬感じた寒気と直感に押されシェダがカードを切る。
「ツール使用オーガの盾!」
(シェダ……!?)
重厚で巨大な盾がディオンの目の前に出現し、それは攻撃を阻むかのような位置に現れた事でエルクリッド達もシェダの意図は読めず戸惑いを隠せない。
ただ一人、ディオンだけは考えるよりも先に動いたシェダの判断を信じ攻撃を途中で止め空中を蹴って離脱へ移り、刹那、目の前に実体となり拘束を破ると共に跳ね上がったウラナが大口を開けて迫るのが映る。
そして次の瞬間、ディオンの左腕を食い千切ったウラナはそのまま地上へ着水するように影の姿へ戻り、片腕をもがれた反射がシェダを襲い左腕が音を立てて複雑骨折と大量出血を起こす。
「スペル発動ヒーリング! ちょっとシェダ!」
「大丈夫、だ。でも、ウラナの情報が増えたのに引き換えれば安いぜ……!」
エルクリッドにヒーリングのスペルをかけられ応急処置を受けながらシェダは痛みに耐え、深く息を吐きながら気持ちを落ち着かせていた。
ディオンもまた同じように左腕を肩から失いおびただしい血が流れていくが、そちらにはシェダ自身がヒーリングのカードを使いひとまず出血だけは止める。
「咄嗟の判断に助けられた、礼を言う」
「それ以上に助けられてきてんだ、気にすんな」
不敵に笑みを浮かべ答えるシェダの顔から血の気が引き気味であること、凄まじい痛みを我慢していてもその鼓動が速くなり汗となり表れていること、その痛々しい姿を見てディオンは初めて彼と出会った時と重ね合わせて見ていた。
国が糾合し四大国制へ移っていく中でディオンの国もまた実質的に消え、その際に魔槍の呪いを受ける為に離れた自分の所へやって来た主君の言葉を胸に生きていた時に出会った未熟な若者。経験もなければ知識もない、だが誰よりも故郷を思いその為に頑張る姿に、かつての自分が重なって見えたのをよく覚えている。
(王……仕えるべき者の為にその力を使えと言ったあなたの言葉が俺を生かし、シェダという若者と会えた……彼はあなたのように仕えるべき者というにはいきません、でも……)
右手に持つ魔槍が黒き雷を静かに纏う。闘志の高まりと共に刃が研ぎ澄まされるような感覚と共に、ディオンの思いもまた強くなり青白い素肌に血の気が戻っていく。
「シェダ、お前の望みが故郷を救う事ならば、その為にこの槍を振るうと誓った。今も変わらぬその覚悟、この場で潰えさせはしない……!」
「ありがとなディオン。さぁ、続けるぜ!」
威勢良く答えるシェダがカードを引き抜くと共にウラナが再び動き出す。
ツールによる拘束が有効とはわかったが、摩耗や破壊で使い切りとなりがちなそれらで拘束するのは一般的ではなく、シェダの手持ちも自衛程度の弱いものしかない。
それはエルクリッドも同じで、職業柄それを多く持つリオくらいしか戦闘に耐えられるものはない。スペル及び魔法に対して強い事もありタラゼドも役に立てる状態と言えず、ノヴァもまだスペルしか使えない状態と不利そのもの。
満身創痍、圧倒的不利な中では撤退もやむを得ないのはわかっている。だがそれ以上に滾る闘志がシェダとディオンの目に光を灯し、それが伝播するエルクリッド達もまた、心折れずに影の神獣へ挑むのを諦めなかった。
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