分析し攻めへ

「出番だよ、ダイン!」


 聖環背負う聖犬チャーチグリムのダインをエルクリッドは召喚し臨戦態勢へ。シェダは偵察の為に出していたメリオダスを戻さず、リオの戦乙女ローズが聖剣ヴェロニカを手に持ち力を込める。


 神獣ウラナ。その力の全容はタラゼドも把握し切れてない事から情報は多いとは言えないものの、判明している事から着実に戦略を組み立てていくしかない。

 ゆっくり影としてウラナが距離を詰めていくのに合わせ、まず最初に動くのはリオだ。


「まずは弱いものから始めます、スペル発動ホーリーバインド!」


 白く光る鎖がカードより放たれウラナへと向かい、地面に突き刺さって磔にするようにホーリーバインドの効果が発動される。が、次の瞬間に沼に沈むように白き鎖はずぶずぶとウラナの影に沈んで消えてしまい、そこへエルクリッド、リオと連続してカードを切った。


「スペルブレイク! ホーリーバインドッ!」


「咎背負わせるは重ねられし生命の重さ、織り成される営みは呪縛となりてそのものを括るだろう……! スペル発動、ソウルレイザー!」


 多重に編まれ太さを増してホーリーバインドが改めてウラナを縛り付け、さらに天より白き楔がいくつも打ち付ける。

 スペルブレイクと詠唱札解術による強化されたスペルによる拘束。特にソウルレイザーは対象が喰らってきた生命の分だけ威力を増すものであり、影のまま相手を喰うウラナには有効と言えた。


 しかし、神獣たるウラナは影のまま身動ぎし、やがてホーリーバインドの鎖もソウルレイザーの楔も沈んで呑み込み打ち消してしまう。

 底なし沼のようなウラナの力にノヴァは驚きを隠せないが、一方でエルクリッド達は動揺なくウラナの挙動を確認し、特にメリオダスを通して観察し続けるシェダは顎に手を当てながら分析を進めていく。


「効いてないわけじゃねぇ、な。吸収、ってよりは無効化してるに近い感じだ」


「そういう能力ってのは伝承とかサレナ遺跡でのそれで予想はついたけど、神獣の能力は全部で三つ……影の状態で動けるのと、一部を除いて無効化するのははっきりしたね」


 イリアとの戦いで、神獣は能力を三つ持つ事はわかっている。それらがカード化した際の効果でもあり、ウラナとて例外ではないと。


 もちろんそれが現段階での推測である事も確かであり、まだ油断はならないのは共通の認識としてある。明確な攻撃を受けた事でウラナもまた影のままでの移動を早めエルクリッド達へ近づき、刹那にローズが地面を切って土煙を巻き上げ影を作り自分達のものと被せてみせた。

 ウラナの頭部が影に触れた事でその部分が削れるが、実際に削られたのは巻き上げられた砂煙のみ。同じ影に重なるローズは無傷であり、影を削りその主への反射は誤魔化しが効く事を確認すると盾を放り投げて影を作りそれに重なるように飛んでウラナの上を取る。


「スペル発動アクアブラインド!」


 ウラナを覆うように現れる霧が影を作り包み込む。刹那に盾に隠れ急降下するローズがウラナの影を切りつけるも、手応えのなさから素早く盾を拾って離脱しようとするもずぶずぶと盾がウラナの中へと沈んでしまい回収できず、やむを得ず回収を諦めリオの前へと戻った。


「ローズ、大丈夫ですか?」


「問題ありません。しかし……」


 リオに答えながらローズはウラナを捉え恐るべきその力に冷や汗を流す。と、ぽんっと吐き出されるように飲み込まれた盾が放り出されてローズの前に落ち、警戒しつつそれを拾い直しここまでの戦いを改めてリスナー達は分析し直す。


「盾を飲み込んだのに吐き出したって事のは食べられないから? それとも単に遊んでるだけ?」


「もしそうならスペルを吐き出して打ち返すみたいなのもしてくるだろーが、しねぇって事は無効化するだけなのかもしれねぇな……」


「とはいえこのままでは消耗する一方なのは確かです。分析はここまでにして、仕掛けましょう」


 吸収したものを吐き出して反撃する能力を持つ魔物は存在するが、ウラナはスペルを呑み込みはしたが吐き出さない。盾を吐き出した点も踏まえて限界ないし制限があるのかはわからないが、リオの言うように消耗する一方なのはエルクリッドもシェダも同じ認識である。


 リオがそのカードを引き抜くと、瞬間、ウラナが何かを察したのか素早く接近を始めすぐにシェダが守りに入った。


「ツール使用ファントムアンカー!」


 キラリと空が光り刹那に落下してくる黒鉄の錨が突き刺さりウラナの進行を阻止するように影を作り出す。瞬間、ウラナが影を喰ってファントムアンカーを破壊し注意が逸れ、リオがカードを切る時間を作り出す。


「等しく生命を照らす眩き輝き、清浄なる息吹と共に世界を照らし魔を祓え……! スペル発動、シャイニングレイ!」


 詠唱札解術の詠唱と共に発動されたカードより天に向かって白い光が昇り、やがて弾けると雪のような小さな光となり辺りへ降り注ぎ影を消していく。


 それはウラナとて例外ではなく薄まっていくと共に橙色の光走る漆黒の身体が地面より現れ始め、やがて完全にその姿を晒すと共に全身に走る光を明滅させながら幾重にも連なる牙を持つ口を開き敵意を示す。


 刹那、地を蹴り背後へ素早く回り込んだダインが飛びかかり、メリオダスも頭上から急降下と共に鋭い爪を閃かせる。それらに対しウラナは漆黒の身体をうねらせダインに対しては尾を振り近づかせず、メリオダスは大口を開けて呑み込む構えで待ち受け攻撃を止めさせた。

 だがその瞬間にローズが懐へ潜ってウラナの腹へ剣を突き刺しに行き、確実にその身体を刺し貫く。が、剣の切っ先は刺さらず手傷に至ってないと気づき素早く離れ、ダインとメリオダスも同じように一度距離を取る。


 神獣は神獣、実体を引きずり出したところでその事実は変わらない。生半可な攻撃は通じないと察したエルクリッド達がそれぞれカードを引き抜き、アセス達もそれに応じるように攻撃態勢へ。


「スペル発動ビーストハートッ!」


「スペル発動ウィンドフォース!」


「スペル発動ホーリーフォース!」


 強化スペルによりアセスの能力を高め、刹那に再度攻撃をかけるアセス達がウラナの反撃を避けて一気に三方から迫る。その攻撃が当たる瞬間に、日蝕泰魚にっしょくたいぎょウラナは秘めた力を解き放つ。


 

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