未知数の強者

 戦いが始まると共にヒレイが口内に紅蓮の炎を燻ぶらせ一気に放射し先制攻撃へ。これをクーレニアは身軽に空へ飛びつつ避けながら口を開け、刹那に黄色い光が放たれるとヒレイは素早く身を屈めるも翼を掠め、そこが切られて出血するのを感じ取る。


(速いな……属性があるようにも見えないから気をつけろ)


(わかってるよヒレイ)


 クーレニアの種族はわかっておらず、その力は未知数そのもの。その中で得られる情報をエルクリッドとヒレイは共有し、まずはクーレニアの吐く光線という情報を得る。


 エルクリッドがカード入れに収まるカードを指でなぞって一枚を引き抜き、ヒレイも翼を広げクーレニアに向かって飛ぶとそのまま体当たりを敢行し円陣サークルの壁へ叩きつけ、素早く手の爪を閃かせ引き裂きに行くもクーレニアはするりと抜けるようにさらに高く飛んで避け、しなやかに尻尾を打ち付けに行く。


「スペル発動プロテクション!」


 エルクリッドの発動したプロテクションの薄い膜がヒレイを守るも、華奢ながらも強烈なクーレニアの尾撃の威力に押され地上側へ追いやられ、そこへすかさずユピアがカードを切る。


「ツール使用、ドラゴンバインド!」


(対ドラゴン用ツール……!)


 口を塞ぐように絡みつき、翼も強引に閉ざすように古代文字を刻む白銀の鎖が何処からともなく現れてヒレイを締め上げ、そのまま地上へ鎖が打ち込まれ動きを封じ込めた。

 対ドラゴン用ツールの一つドラゴンバインドの存在はエルクリッドもファイアードレイクのヒレイをアセスとする事からよく知っている。一度縛られれば鎖に刻まれた呪詛の言葉がドラゴンから力を奪い去り、容易く身動きを封じてしまう。


 ドラゴンをアセスとするリスナーはそう多くはないが、だからこそ使う側は警戒しておくカードとして学んでおかねばならない。もっともドラゴンバインドはカードの中でも最高位の金枠カードであり、使うには相応の実力が求められるのだが。


(このユピアって奴……それなりかと思ったけど本当に強い……! でも!)


 ユピアの秘めた実力を感じながらエルクリッドは身動きを封じられ地に伏せられたヒレイと目を合わせ、刹那にクーレニアが黄色い光を口から放ちトドメを刺しに行くのに合わせカードを切った。


「スペル発動ゴーストップチェック!」


 次の瞬間、ドラゴンバインドによって封じられていたヒレイと攻撃態勢に入っていたクーレニアの位置が入れ替わり立場が逆転する。

 拘束状態かつ動かない対象と最も動いている対象との位置を変えるゴーストップチェックのカードで流れが変わり、じたばたとクーレニアがもがくもドラゴンバインドの効果は強くヒレイが口内に炎燻ぶらせ攻撃態勢へ。


 逆転劇に盛り上がる中でエルクリッドは、ユピアが苦笑こそしているが危機的状況を前にして冷静でいるのを感じ取る。余裕とは違う、読み切っているのとも違う、純粋に戦いを楽しむ笑みが彼の口元に浮かんだ。


「強いですね、楽しいです。ですが自分も簡単には負けませんよ」


 ドラゴンバインドをカードへ戻し、拘束が消えた瞬間に頭を上げたクーレニアが瞬時に口内に黄色い光を収束し、ヒレイが炎を吐きつけるよりも速く反撃に転じる。

 想像以上の速さにヒレイは避け切れずに左腕を光線で撃ち抜かれ、しかし構わず炎を吐きつけクーレニアを捉えた。


(このクーレニアとかいう白い奴……なんだ……?)


 炎に包まれ、次の瞬間にばさっと翼を強く羽ばたき吹き飛ばし姿を現すクーレニアを見ながら、ヒレイは目を細めた。

 光を放つドラゴンというのは多くはないが存在はする。しかし、そのどれもが属性の力を転換した、言わば魔法攻撃を息のように使うものだ。


 クーレニアのそれは触れれば切断ないし貫くだけの光そのもの。魔力を使わない光の刃を放つような、見聞きした事がない攻撃である。

 傷口そのものも小さいが貫かれた事に変わりはなくヒレイが左腕から流す血も多いが、ぐっと力を込めて筋肉で塞ぎ止めつつ一度エルクリッドの前に降り立つ。


 クーレニアも少し焦げた自分の身体を気にする素振りを見せ、直後にユピアに鼻先を擦り寄せ甘え始める。


「くー……」


「熱かったよね。でも大丈夫、戦いが終われば洗ってあげるから……ね?」


 頭を撫でて宥めるユピアに応えるようにクーレニアが再びヒレイの方へ向き直り、未知の相手に対する強さにエルクリッド達は思考を張り巡らせていく。


「強い、ね。一気に仕掛けよっか?」


「できるならそうしてるだろう。容易い相手と思うな」


 だよね、と答えながらエルクリッドは息を深く吐いてカード入れに手を置く。ユピアとクーレニアの実力は未知数、短期決戦をかけるにしても情報不足で危険が多い。


 戦況そのものは互角、だが少しずつ精神的な余裕はエルクリッドの方が削がれている。だが、そんな中でエルクリッドは笑みを浮かべるとぱんっと両頬を叩き目に光を宿す。


(この世界には見知らぬ強い人がまだいる……だからバエルの奴はずっとずっと強くなろうと、高みを目指し続けてる。そんな奴に挑もうとしてるなら、あたしも負けられないよね……!)


 遥か高みに立つバエルが研鑽し続ける理由や意味を身をもって体感した事でエルクリッドの闘志はさらに高まる。まだ見ぬ強者達、未知数の相手がこのエタリラという世界には数多いる。

 そして名が知られる者達もまた、いつか出会うであろう未知の相手に向けて日々の鍛錬を欠かさずにいると。だからこそ、より強くなりたいと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る