短編一話完結小説
凪
進路の迷い
「うーん…」
俺は、文字が羅列されたパソコンのドキュメントに嫌気が差していた。
将来の夢がないわけではないが、それは単なる子供ならではの夢で実際にそれを職にするとなると、本気度が薄れるとかいうとても微妙な路線を辿っている。
でも、もう出願期間は迫っている。しかも、最悪なのは、エントリーシートはパソコンでの入力ではなく、紙面での提出だから、この大量の文字を全部移し替えなくてはいけない。
まあ、本音を言えばその作業は全然負担じゃない。問題なのは、どうやって文字数を稼ぐかだ。単に言葉を長くしたところで、添削するときにすべて消されて結局は薄っぺらい内容で【やり直し】を喰らうことになる。
文を考えることは苦手ではない。だけど、それは創作物をする上においての話なだけであって、こういう人生に関わるような真剣な文を考えるのは苦しい。
嘘を並べてしまえば、面接の時や、それこそ添削をお願いするときに言葉が詰まる。先生というのは、長年進路に関して生徒を見守っているだろうから、すぐに見抜かれる。文字数を稼ごうと無駄にいらない文を書いても同じ結末だ。
だからこそ俺は、パソコンの前でげんなりしている。
大学に行きたいのかすらもわからない。理科が好きな俺だが、【好き】と【得意】って別もんだろ?【好き】っていうのは単にそれに興味があって、学ぶことが”楽しい”と感じるということだと俺は思ってる。
【得意】となると、それはその人の強みになって、それこそ進路で役に立つ可能性は大だし、将来就く予定の職にも活かせるかも知れない。
【好き】と【得意】には、これだけの差がある。
俺に関しては一番厄介な前者なんだ。好きだからといって、今のままでいいと感じているし、大学で学ぶほどのことでもないなと思ってしまう。進路で文章を書くうえでこういうのが一番だめ。でも、多少の嘘を書いたら、俺の首を絞めることになる。
しかもなぁ。もっと厄介なのは、俺は創作をつくるのが好きだし得意だから、感情が文章に入っちゃって、エントリーシートが物語っぽくなっちゃうんだよな…
実際に指摘を受けたし…。大体、すごく順調に文章を書けたときはそうなってしまっている。そのわりには、『ですます』はしっかりできてるんだよな。
やっぱりさ、こういう進路関係の書類って、質問内容が難しいんだよな…
創作だったら、いくらでも書けるのにな…。
理科が好きな文系男子。理系なんだか文系なんだかはっきりしていただきたいものだ。
そんなことを心の中でグチグチ言いながら、また俺はパソコンとにらめっこしながら、進路に向けて取り組むのであった。
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