第9章 男子校のシンデレラは、魔法使いの力を借りずに変身できる
第37話 ルームメイトは、成績を上げてくれたお礼がしたい
これは期末試験も終わり、後は夏休みを待ち受けるだけという、とある日の昼休みのことだ。
「そういえば脩。こないだのカラオケの時の倉田が、またお前と話したいって言ってたけど」
「却下」
そう言って谷が俺に話しかけてきたのを即答で即断したのは、俺ではなく瑠偉だった。
「いや瑠偉、脩じゃなく、なんでお前が即断すんだよ……」
「ダメだよ谷。脩は今ちょお忙しいんだもん」
ねえ?
と頬杖をつきながら俺に同意を求めてくる瑠偉は、眼差しで『わかってるよね?』とひしひしと圧を飛ばしてくる。
……はい。ワカッテマスヨ……。
お前以外の女の子とは不要に仲良くするなってことですよね……。
「まあ、そうだな。しばらくはちょっと忙しいかもな……」
「んおお? そうなんか?」
俺の答えを素直に聞き入れる谷。
すまん谷……。
実のところ、本当にそんなに忙しいわけでもないのだが。
隣のルームメイトの圧が……。
「そうか……。まあじゃあ、倉田にはしばらくは厳しそうだって答えとくわ」
「悪いな、谷」
「ん? いやいいって」
そう答える谷は、すぐに返事を送るのか、スマホを取り出してぱぱっとメッセージを入力していた。
「ねえ、ところでさあ……」
谷がスマホでメッセージを送り終わるタイミングで、おもむろに瑠偉がそう言って切り出してくる。
「谷はさ、この中だったら、女子のどの格好が好き?」
…………ん?
「なんだあ瑠偉? 珍しいこと聞いてくんな」
「ん、ちょっと……友達から聞かれて」
谷から珍しがられる瑠偉だったが、瑠偉が谷にそう答えると、谷はそれですんなりと納得したのか「うーん、俺はなあ……」と言って瑠偉のスマホの画面に映し出された女の子の服装を真剣に眺め出し始めた。
「俺は……、これかな。元気系女子!」
そう言って谷が選んだのは、短め丈のTシャツにデニムのショートパンツを合わせたカジュアルな元気系女子のスタイルだ。
快活で明るい女子が好きそうないかにも谷が好みそうなチョイスだ。
うんうん。わかるぞ谷。
これから夏だし、露出が多めの可愛い女の子っていいよな。
「じゃあ……、脩は?」
「……俺?」
そう言って瑠偉が次に、俺にも同じようにスマホの画面を見せてくる。
そしてなぜか、気のせいなのかさっき谷に見せていたよりも距離が近い……。
瑠偉が近づいてきた時にふわりと香ってきたのが、あの時一緒に買ったハンドクリームの匂いで少しドキッとした。
「う〜〜〜ん……。俺だったら、これかな」
「これ?」
「うん」
そう言って俺が選んだのは、白いブラウスに膝丈スカートの割とシンプルなやつだ。
「おお〜〜、脩って感じがする」
「そうか?」
「おお。だってお前、絶対頭よさそう系の清楚女子が好きだろ」
確かに。
言われてみるとそうかもしれない。
谷に言われて、俺が改めて自分の嗜好を再確認していると、隣で瑠偉が
「…………せいそけいじょし…………」
と小さくつぶやくのが聞こえた。
……ん?
俺、別に瑠偉さんにそういうの求めてるわけじゃないですよ?
「どっちかというと倉田もそういうタイプだもんな」
何気なくそんなことを付け加える谷に、瑠偉がぴくりと反応する。
おい……、谷……!
お前は知らんかも知らんが、今瑠偉はその名前にめちゃくちゃナイーブなんだからちょっとやめて欲しいんですわ頼みますほんとに。
しかし結局、その場はそれで終わったことで、この話は単なる世間話の一つで終わったのだと思っていた。
そう――。思っていたのだ。
俺は。
しかし――、その夜。
「あのね、脩」
そう言って、瑠偉が改まった様子で俺に告げてくるので、どうしたのかと思って「なんだ?」と聞くと。
「その……、脩のおかげでテストの結果もすごく上がったし。お礼がしたいなって」
「いいよそんなん。別に」
瑠偉が成績を上げて来年同じクラスになってくれることは、俺としても望ましいことでもあるし。
単純に、また瑠偉と同じクラスになれて嬉しいことと、こんな危なっかしい男装女子を放置せず、近くで見守れると2点において。
しかし、瑠偉はそれでは気が済まないらしく、「いいよ」と軽くあしらう俺に納得いかない顔を見せた。
「脩がよくても、僕がよくないの」
「でも……、お礼っつったってなあ」
特にこれと言って何かしてもらいたいこともないし……。と言う俺に、瑠偉が
「じゃあ」と言って、自ら提案をしてきた。
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