魔力ゼロは無限大の可能性 ―気づいたら四つの精霊神と融合、4人の魔法少女とハーレムに!?―

リューガイ

第一章:辺境の地とARCAの少年

第一話:転送者

 ヒヤリと頬を撫でる風の感触で、僕の意識は浮上した。


 ―――僕は神代緋月(かみしろひづき)。私立星屑月光しりつせいとげこう高校二年生だ。幼なじみで同じ高校に通っている光月陽葵(こうづきひまり)と一緒に歩いていたところ、謎の光に包まれた。

 それ以外のことは覚えていない。陽葵ひまりと一緒に光に包まれたところまでは覚えている。

 そして、気づいたらここにいた。


 見上げた空は、どんよりとした灰色。まるで世界から色彩が失われたかのようだ。

「……ここは、どこだ……?」

 ゆっくりと体を起こすと、視界に飛び込んできたのは崩れかけた石造りの建物と、枯れた井戸。まるで、何かの物語で見た滅びた村のような光景が広がっている。

 遠くで響く、獣の低い唸り声が妙に現実味を帯びていた。


陽葵ひまり……!そうだ、陽葵がいたはずだ。あいつを……また、僕のせいで……?違う、思い出せ……!」

(なんだよ、ここはどこなんだよ、、、)

 一緒にいたはずの幼なじみの名前を叫ぶ。光に包まれた、あの瞬間のことを思い出そうとすると――

「――ッ!?」

(いたっ!)

 ズキン、と万力で締め付けられるような激しい頭痛が脳を駆け巡る。駄目だ。考えようとすればするほど、記憶に深い霧がかかっていく。


(思い出せない……!でも、陽葵ひまりがいたことだけは、確かだ。それなのに、僕は……!)


 過去の、守れなかった時の後悔が、名前も知らない感情となって胸を締め付ける。

 激しく打つ心臓を落ち着けようと、必死に深呼吸を繰り返す。

 薄い靄(もや)が立ち込めるせいで、視界も悪い。最悪の状況だった。

 重い体を引きずって、なんとか立ち上がった、その時だった。

 ガサリ、と崩れた建物の影からソレは姿を現した。


「ぐるるるぅぅぅ……」

 赤い瞳が、暗闇で不気味に輝いている。

 剥き出しの牙、逆立った赤黒い体毛。全長は……3、いや4メートルはあるだろうか。

(なんだ、あの生き物は……?)


 あまりに非現実的な光景に、思考が追いつかない。

 初めて聞く唸り声と、全身で感じる殺気に、足が地面に縫い付けられたように動かなかった。

「あ……ぁ……」

(逃げろ)


 頭では理解しているのに、体が指示を聞かない。

 ソレは、ジリ、ジリ、と確実に距離を詰めてくる。獲物の絶望を愉しむかのように。


(まただ……また、俺は……!何もできずに見てるだけなのか……!)


 激しい感情の昂ぶりに、一人称が「僕」から「俺」に変わったことに、自分でも気づかない。


(もう、あんな思いは……嫌だッ!!)


 俺がそう強く願った、その瞬間だった。


「ア…う…ひ…も…よ…め…よ…」 


 目の前の地面が、突如としてまばゆい光を放った。複雑怪奇な紋様を描く、巨大な紅蓮の魔法陣。それは、どこか懐かしい、何度も見たことがあるような、不思議な紋様だった。

 それに、誰かが囁いてるような声が聞こえたが、今の俺には、何も感じなかった。


 ビカァァァッ!!


 絶対的な光と熱の奔流が、眼前の魔物を一瞬で飲み込んだ。

 それは蒼い炎の柱だった。


 ゴォォォォォッ!


 「グギャァァァァ」


 何かが燃え上がる音と、鼻を突く焦げ臭い匂い。そして、断末魔のような叫び、一瞬にして魔物を焼き尽くす。


 やがて熱風が止み、恐る恐る目を開けると――さっきまでいたはずの魔物の姿はどこにもなく、地面には黒い焦げ跡だけが残っていた。


「は……? いまのは、一体……?」

(あれ、魔物は!?)


 何が起きたのか分からない。ただ、自分の足元に、紅蓮の魔法陣の残滓ざんしが一瞬だけ見えた気がした。

 ガサッ。

 その音に、僕はびくりと肩を揺らした。

 まだいるのか!? 反射的に身構えた僕の前に、森の奥から現れたのは――

 フードを深く被った、性別も分からない人影だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る