第20話 ヨシヨシ、かっこいいとこ見せられたね……!

 なに? 『剣聖』、だと……?


 ……少しだが聞いたことがある。二、三年前から騎士団で頭角を表し、史上最年少で副団長に上り詰めた若き俊英。


 そして驚くことに、まだ少女ながら、類い稀な剣の腕と世にも珍しいユニークスキルを持つ、と。


 それが、ルナだと……!?


「……へえ、私のこと知ってるんだ。私はあなたのこと知らないけど」


「……そう、だろうな! 俺も見たのは一瞬だ。まだ冒険者をしていた頃、騎士団との合同依頼があった。その時のお前はまだ剣聖と呼ばれてはいなかったが……それでも、明らかに周囲と隔絶した実力だったことを覚えているぞ……!」


「ふーん。じゃあ、私が覚えてないんだから、そっちはたいした実力じゃないんだね」


「それは、『剣聖』に比べればそうだろうな……ッ!」


 ルナのやつ……重撃に対してはいやに冷たい態度だな。


 ん?


「ヴィクターさん! あんまりこっちばっかり見てないで、そっちはそっちに集中だよ! 危ないからっ!」


 ……ああ。それは、言われずとも分かってる。


 いまだって、目を逸らしたところに突き込まれた拳も――


「チッ! 見てやがるか!」


「あいにくな。向こうを気にする必要もなさそうだし、お前だけに集中できるようになった」


「くそ、そう、それだよッ!」


 悪態を吐きながら連続で拳を放つ鉄拳。


 ずいぶんと焦ってるな? 大振りになってかわすのも容易い……。


「相棒の相手は、あの『剣聖』だ! お前なんてさっさと倒して手伝いにいかねえとやべえ!」


「だろうな。だが……ルナが本当に『剣聖』だというなら……」


 ――もう、遅いんじゃないか?


「な……ッ」


 俺が指差した先では。


「――くそ……! この、化け物め! なにをどうすれば――――重力を斬るなんてことができるんだ!」


 重撃のやつめ、必死に逃げ回っているな。体中に切り傷を作って、もはや勝負は明らかだ。


「はあ。言うに事欠いて化け物? ……あんまり、ヴィクターさんの前でそういうことは言わないで」


「なにを、かまととぶって……! クソッ、もう、一か八か……!」


「へえ、まだなにかある? だったらいいよ、好きにして。待っててあげるから」


「どこまでも、この俺を舐めて……!」


 最後に何か、切り札でも切ろうとしているらしい。


 ……おっと、鉄拳の方もずいぶんヒートアップしてきた。


「そこを、どきやがれ……! どかねえっていうなら、命の保証はできねえぞ!」


「ハッ、それでいいのか? セラス伯は、生きてる俺を探してるんだろ?」


「それはそうだが……命あっての物種だ! 『剣聖』にともども殺されるくらいなら、てめえを殺して相棒と二人で逃げた方がいくらかマシだぜ!」


 そういって、数歩距離を取る鉄拳。


「後に響くから、こんなとこで使うつもりはなかったが……! 【身体干渉】――鋼鉄籠手ガントレットフィスト!」


 へえ……。片腕全体を作り替えて、まるで巨大な鋼鉄のガントレットだな。


 それに、さっきまでより明らかにまとう魔力がデカい。腕に集中していることも考えると、強化倍率はこれまでと比にならなそうだ。


 そして、ちらりと視線を向けたルナの方では。


「【重力干渉】――重力武装グラビティアームズ!」


 ほう。重力を固めて作った剣と鎧、か?


「触れれば潰れる力の塊だ! さらに、俺の動きをサポートするように力が加わる。この状態の俺は、相棒の強化した体にも引けを取らんぞ……!」


「あ、そう。じゃあ早く来ていいよ。相手してあげるから」


「後悔するなよ……!」


 そう言って動き出した重撃は。


 ――確かに、速いな。


 だが。


「奴隷使いィ! とっとと、死ねや!」


「おっと……」


 乱暴なやつめ。


 だが、【生体支配】による身体強化を【大気支配】の風で後押しすることで、今の俺もお前と近い身体能力は発揮できる。


 さらに、今の俺は奴隷たちを気にする必要がなくなったから、全てのリソースを鉄拳に費やせる。


 【大気支配】で、身体強化のサポートと並列に遠距離攻撃も交えてやれば、鉄拳を手玉に取ることも容易い。


「クソ、クソ、クソ! 鬱陶しい! 奴隷の後ろにでも隠れてればいいもんを、俺の邪魔すんじゃねえ!」


「そういうわけにもいかんな。さっきまではこっちが散々やられてたんだ。今度はお前が、仲間がやられるのをここで見てればいい」


「うるせえッ! どけ!」


「ふん。――もう、遅いだろ」


「なッ」


 見ろ、ルナを。


 重撃の前に立つ姿の、あの威圧感を。


 そして、ルナがそのユニークスキルの名を口にした。


「――【剣才自在】」


「う、ぅおおおおおおお!」


 重力をまとって突進する重撃と対照的に、ルナは静かに剣を構える。


 そして。


 ――一瞬の間ののち、静は動へと切り替わる。




「――万象切断エクスティンクト



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