第4話 愛の証明—告白—

 「渚、二人で話がしたいんだけど、いい?」


 音楽発表の日から割とすぐ、その日は来た。

 景太は、悟られないように、教科書を眺める。

 きっと、彼の恋が終われば、彼は———……。


「え、なんだよ」


「重要な話。二人で話したいから、来て」


 しかし、渚が顔を赤らめ、ぎこちなくそれに応答したことで、彼の皐月への気持ちが、本物だとわかってしまう。


「ねぇねぇ、見ました?」


「見ました見ました!!」


「きゃ!まさかの女帝様が略奪?!」


 景太は逆に冷静だった。

 そうだ。皐月の言い分が正しければ、彼はきっと自分のものになる。

 愛おしい主は、ずっと、自分のものだ。




 皐月は、音楽室に渚を連れてきた。

 昼過ぎ、今は幸い、誰もいない。


「皐月、話って……」


「私、……オレさ、本当は男なんだ」


「……は?」


 男。

 自分と、同じ、男。

 嗚呼、だからか。異常に安心したのは。


「アハハ!!」


「ちょっと、真剣なんだけど」


「悪い。いや、お前が異常に安心するやつだとは思ってた。女性不信の、俺がだ」


 だからだ。

 『男』だから、安心したのだ。


「お前……」


「……お前は、あれか、性同一、とかいう」


「……そう。体は女で生まれた。でも、心は男だ。いや、オレは……」


「俺は、お前が大切だ」


「!!」


 恋だと思った。

 でも、違う。

 あいつとは、『大切』の毛色が違う。


「お前とは、ずっと、友達でいたい」


「おう!オレもだ!!」


 そして、自身の女性不信の理由も親友に話した。

 中一のある日、家庭教師の女子大学生に変な薬品を飲まされ、そのまま、犯された。

 その時に一緒にいた景太は、より過剰に飲まされたために生死をさまよった。

 自分の貞操より、それが許せなかった、と。


「大切なんだな、あいつのこと」


「でも、友人じゃ、足りねぇんだ」


「お前さ、景太の事好きなんじゃない?」


「……そう思うか?」


「だと思うけど」


「……そうか」


 渚は、憑き物が落ちたような顔で立ち上がった。


「告白してくる」


「ワハハ!頑張れな!!」


「ああ」


 そういって、渚は音楽室を飛び出した。

 そんな渚が開けっ放しにした扉の方を微笑みながら見つめる、皐月。


「世話がかかる奴らだなぁ」


「……皐月」


「……栞」


 その扉の方から現れたのは、浦栞。

 皐月の幼馴染で、バンドのドラマーだ。

 そして、渚、景太の他に皐月の事情を知る理解者でもある。


「(……オレも頑張るか)栞、あのさ……」


 こちらの恋も、動くかもしれない———……。




「景太!!」


「?!」


 景太が勉強がめんどくさくなりお気に入りのライトノベルを読んでいると、渚が教室に勢いよく入ってきて、景太も、クラスメイトも、仰天する。


「ぼ、坊っちゃん?どうし……」


「好きだ、お前が」


「は?!」


 渚が机越しに景太に告白する。

 教室内が、いきなりの告白タイムに、わっ、と沸いた。

 しかし、一体どういう……?と困惑する景太だが、確認しなければいけないことはある。


「あ、貴方は、片瀬様が、お、お好きなのでは……」


「皐月は、親友だ。お前とはなりたい関係性で毛色が違う」


「な、なりたい、関係性……?」


 待ってください、待ってください、それを繰り返す景太。

 しかし、手をわたわたと空中で動かさせているとその手を渚に捕まえられてしまい、おまけに、そのままぐいっと、背中まで掴まれてしまい、もう渚しか見れなくなってしまう。


「……っ!!」


「いいか、俺はお前にいなくなられるのは御免だ。それは皐月にも言えることだが、お前とは、……永遠を誓いたい」


「と、とととととと永遠、です、か?」


「お前、顔真っ赤すぎんだろ」


 ふ、と妖艶な男らしい笑みで、景太を愛おしそうに見つめたと思ったら、渚は、クラスメイトがいる中、教室で景太に口づけした。

 景太は、細い目をこれでもか、と見開いたが、すぐに涙目になり、愛おしい主の口づけを受け入れる。


 繰り広げられる愛の劇場に、クラスメイトたちは歓喜し、祝福した。


—第四話 了—

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