勇者を召喚したら、前世の担当ホストでした! ~魔王が滅んだアフターな世界~

別所 燈

第1話

ラフレシア王国の勇者レイトが刺された。




 そんな一報が流れ、世界に激震が走った。




 魔王が勇者レイトによって倒され、平和になったこの世界で、彼が刺されたのだ。




 聖女クリスティアは彼が運ばれてきたという神殿の処置室に急いだ。




 なんといってもレイトはクリスティアが召喚した勇者なのだから。




 勇者レイト♂、魔法騎士♂、弓使いユミル♀、赤魔導士♀アガサ、重騎士♂、王家見届け人の姫、そして聖女のクリスティアがパーティを組み、一年の苦難に満ちた旅ののち、魔王を討伐した。




 思い出したくもないくらい、苦々しい旅の記憶。




 後方支援のクリスティアは休む暇もなく、皆ケガの治療もした。




 しかし、攻撃組は違う。




 皆血の気が多かった。




 そんな中で、恋の相談も受けた。




 ユミルとアガサがレイトの取り合いを始めたのだ。そこへ姫が参戦し、とんでもなく荒れ模様となる。




 仲間の治癒で疲れ果て、恋の仲裁で疲れ果てたクリスティアに、「性格のきつい女は嫌なんだよお」とのたまい癒しをもとめて迫ってくる魔法騎士♂と重騎士♂。




 クリスティアの頭は、魔王の危機より、人間関係でおかしくなりそうだった。




 魔王討伐前夜、プレッシャーに苦しんだクリスティアは、心のたけを叫ぶ。




「お前ら! 旅の途中でちんたら恋愛リアリティショーかま


 してんじゃねえよ!」




 皆がぽかんとする中、異世界から召喚されてきたレイトだけが、ゲラゲラとわらった。




 そうレイトは日本から召喚されてきたのだ。




 そしてクリスティアも日本からの転生者だった。




 ここで、レイトとクリスティアに共通の話題ができたわけだが、彼らの中が進展することはなかった。




 その後、何とか勇者が魔王を倒し、世界は救われる。


 最終戦の時ばかりは、皆命の危機を感じたのか、奇跡的に一致団結したのだ。




 だが、一番の要因は出しゃばりの姫がおとなしくしていたこと。




 魔法討伐には王家の見届け人が必要という、不必要な法律があって、戦えない姫が勇者に一目ぼれをしてついてきてしまったのた。




 おそらく黒髪イケメンが珍しかったと思われる。




 が、旅終わり、姫は王族としての仕事もこなすことなく、勇者と結婚すると散々ごねているが、国王は首を縦に振らない。




 どうやら、王家でも姫を持て余してらしく、勇者の旅に付き添わせたようだ。




 厄介払いで「見届け人」という名目で、勇者一行に押し付けるのはやめてほしいと、クリスティアは激しい怒りを覚える。




 姫は魔法スキルも剣のスキルもなかったので、魔物が出てくると後方支援のクリスティアが必死で守ったが、彼女はレイトに守られたかったようで、不満たらたらだ。




 人間関係にささくれた苦難の旅がやっと終わり、街の復興もあらかためどがつき、クリスティアは神殿で静かに祈りをささげる日々に幸せを感じていた。




 その矢先にレイトが刺されたのだ。






 レイトは十分な報奨金をもらい、爵位をもらい、拝領までしたのに、なぜか下町の高級娼館の横で店を開いている。


 レイトの店は連日盛況だそうだ。




 レイトに何度も営業をかけられたが、クリスティアがその店に足を踏み入れることはない。




 そんなこんなを回想している間に、クリスティアは長い回廊を走り抜け、救護室の両扉をばたんと開ける。


「レイト! 無事?」




 レイトは、血の気のない顔で、ベッドに横たわりながら、よろよろと手を挙げる。




「いやあ、まいったよ。まさかここでも刺されるなんてなあ」




「お金だっていっぱいあるのに! なんだって異世界でホストクラブを始めるのよ!」




「あ、腹痛っ! どうでもいいから、治癒して?」


 クリスティアはしかたなく、レイトの治癒をしながら話しかける。




 相変わらず傷が治る速さが桁違いだ。




「で、誰に刺されたの?」


「姫に」




「は? 姫? 客の誰かってこと?」


 ホストクラブではすべての客を姫と呼ぶ。レイトの店は異世界初のホスクラだ。




「いやいや、正真正銘のお姫様だよ」


「うそでしょ! あのお姫様、ホスト通いしていたの? てか、レイトならよけられたでしょ! なんでわざわざ刺されたのよ!」


 レイトは苦笑する。




「それ聞く? ホストにだってさあ、客選ぶ権利あるよ。いくらシャンパンタワー入れてもらったとしても、枕はやだね。ことわったら、刃物持ちだしたら、この機会に刺されておくかとおもって」




 どうやらレイトはイロコイ営業はやめたようだ。




「いや、そのたびに私よばれるんじゃあ、迷惑だから! 店たたんで、ちゃんとした領主になりなよ!」




「ええ、せっかく平和なんだし、のんびり店やりたいよお。それに俺の望みは娼館の姫たちを癒してあげることだし。ものほんの高飛車姫はお断りだね」




 クリスティアは頭痛がしてきた。




 レイトは骨の髄までホストだ。




 そのせいもあって、道中女性の間でレイトの取り合いが起き大変なことになった。




 ユミル、アガサ、姫がそれぞれ、レイトに夜這いをかけ鉢合わせして夜中に大げんかが勃発したこともある。




「それで、ユミルと、アガサはまだレイトの店に来るの?」




「あいつら出禁にした。元勇者一行だからってマウントをとって、ほかの姫をいじめるんだ。ゆるせないだろう?」




 クリスティアは暗澹たる気持ちになる。




「レイト、また刺されないでね。てかわざと刺されるのやめて?」


「そういってもねえ、姫に刺されてやるのもホストの甲斐性だよお」


 この男のこういうところに、女は沼る。




「そんわけあるか! せめて王都でやるのやめてくれる? あんたを召喚した聖女の私は、肩身が狭いんだけど? それに王都だとあんたが刺されて呼ばれるの私だし、私が治癒すれば助かっちゃうし?」




 早口でまくし立てるクリスティアを、レイトがじっと見る。




「な、なによ!」


「クリスティアって似てるんだよなあ」


「何に?」




「俺の痛客いたきゃくのゆめちゃん! 一回でもいいから俺の店にこない? うちの店、結構禁欲的な聖職者も多いんだよ。多分クリスティアなら沼ると思う」




「はあ! 誰が、痛客だよ! 前世でホスト通いなんてしないから!」


 クリスティアは激怒した。




「それにしちゃ、ホスクラに詳しくない? 俺さ、召喚される前、そのゆめちゃんにも刺されたんだよねえ。ほら見てこの右の傷、夢ちゃんが俺を刺した跡だよ。正面からぶすっと、ゆめちゃん、左利きでねえ」




 レイトが自慢げに腹の傷をみせる。




「あんた、純情な女心をもてあそんでよくそんな真似が!」




「やだなあ。クリスティア、それは誤解だよ。俺はもてあそんでなんかいないよ。ゆめちゃんは結局傷害罪だか殺人未遂で捕まっちゃったけど、出てきたらまた俺の姫になってくれたもん。まあ、ホスクラが永久指名っていうのもあるんだけどねえ」




「普通は出禁にしないか?」




「まさか! ゆめちゃんは出所した後昼職につけなくなって、夜職になってバンバン稼いでくれたよお。俺にとって最高の姫だったのに、どっかいったんだよなあ。やさおさえておけばよかった」




 そういうレイトは電話一本で治安の悪いお友達をたくさん呼べるやばい奴でもあった。




「最低な勇者! なんてこんなやつを召喚したのかしら、おかげで旅の途中で女性問題はおこすし、私、本当にたいへんだったんだから!」




「じゃあ、ほかの勇者を召喚すればよかったじゃん」




「勇者が選べりゃ、苦労しないわよ。召喚するまで何が出てくるのかわからないんだから!」




 しかしレイトはどこ吹く風で気軽に言う。




「そういや、クリスティアって左利きだね? あは、ゆめちゃんといっしょ!」


「黙れ、カス!」






 一週間後、レイトを刺した本物の姫は辺境で弱小な国に嫁がされた。


 王家の厄介払いである。




 そして、今日もラフレシア王国のホスクラ『勇者』は大盛況である。


 代表でナンバー1のホストのレイトは今日も元気だ。






 聖女クリスティアは、神殿でこの国の唯一神の女神に一心に祈りをささげた。


 その姿はこの国の大聖女らしく神々しい。


 聖職者たちが神に祈る聖女クリスティアの姿に見とれる。




 クリスティは、女神像の前で跪き、ひたすら神に問う。


「女神様、前世の報いを今世でつぐなうなんてあんまりです! 一生懸命祈りをささげ、厳しい修行をつみ、仕えてきたので、前世の悪事は洗い流されたのかと思っていました。なのにどうして、私は前世のホスクラの担当を召喚してしまったのでしょう?」




 今日もラフレシア王国は平和である。

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