第2話 温泉宿の毒湯 2
警察が到着したのは一時間後。
雨の夜道をパトカーが数台連なり、温泉宿の玄関前に赤色灯が揺れた。
先頭から降りてきたのは、背の高い女性刑事だった。
長い黒髪をポニーテールにまとめ、レインコートの下からは動きやすいスラックスがのぞいている。目つきは鋭く、張りつめた空気をまとっていた。
「捜査一課、朝比奈美沙です」
きっぱりとした声に場が引き締まる。
彼女は倒れた客を確認し、現場を一通り見回すと、鋭い視線を宿泊客たちに向けた。
「これは事件の可能性が高い。皆さんには事情を聞かせてもらいます」
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事情聴取が始まった。
私の番になり、緊張しながら事件の経緯を話す。途中、あの男――与世夫の発言を思い出して、つい口にしてしまった。
「それで……露天風呂の前で、あの人が“雑草煮込めば毒になる”とか言ってて……」
「……は?」
朝比奈刑事の視線が、ギロリと与世夫に向いた。
与世夫は何事もなかったかのように、空になった缶ビールを指で弾き、げっぷをひとつ。
「おいオッサン、今なんて言った?」
「ん? いや、毒なんてわざわざ高い農薬とか買わなくても、そこら辺の草で充分だって言っただけだが」
「……あんた、犯人なのか?」
「はあ? 俺はただの宿泊客だ。犯人探しなんざ勝手にやってくれ。俺は風呂と酒が楽しめりゃそれでいい」
堂々とした態度に、宿泊客が一斉にざわめいた。
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朝比奈刑事はしばらく睨んでいたが、やがて深く息を吐いた。
「……あんたの軽口、こっちは迷惑でしかない。でも、その発言……どうやら重要なヒントになりそうだ」
「ヒント? そんなつもりで言ったんじゃないけどな」
「黙れ。いいから協力しろ」
こうして、不本意ながらも――
聖 与世夫は、最初の殺人事件に巻き込まれていくことになった。
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