Ep.05【06】「Deadman Trap」


 

   

  

  

空気がひりついて肌がチリチリする。

 

リオもセスティアも元の職が違えど、危険が迫る感覚は共通していた。

そして、こういう状況不明な場合の対応も。

「ティア!」

リオが短く呼ぶ

「クリア!」

セスティアが即座に反応し、左右廊下を再確認した。

二人は姿勢を低くし、警戒しながらサーバールームを出る。

廊下は来た時と同じく、冷たく暗く静かだ。

二人はそれぞれ銃を構え、慎重に歩を進める。

階段を一歩ずつ、まるで薄氷を踏むかのように静かに降りていった。

リオが階段中央踊り場に到着し、侵入した窓を見る。

「姐ぇさん!」

セスティアが小声でリオを呼び止めた。

狭い採光用の窓の外から赤い走査光が漏れ見える。

 

警備ドロイドだ。

 

二人はその場で息を殺し、様子を伺う。

「こちらリオ。外に警備ドロイドがうろついてる。そちらに何か情報は?」

リオが即座に事務所のステラへ確認する。

「いえ、今のところNTPDには何も情報は上がってきていません。

姉様、大丈夫ですか?」

ステラが心配そうな声で問い掛ける。

「ごめん、スー。いま取り込み中だから、何か新しい情報があれば

すぐに連絡ちょうだい」

「はい・・・・・わかりました。皆さん・・・・・・・どうかご無事で・・・・」

「うん、すぐ帰る」

「はい・・・」

ステラとの通信を切り、ハヤテとの通信に切り替える。

「社屋の周りに警備ドロイド。

侵入した小窓付近をウロウロしてるから、恐らく正面は無理ね。

裏手から脱出するから、コンテナヤードにファントム廻して!」

「了解した!すぐ、そちらに行くから慎重になっ!」

ハヤテの声がエア・インカムから聞こえる。

「ティア、表からは無理。

裏手から脱出して、ファントムで緊急離脱・・・いい?」

セスティアは声を出さず、銃を構えたまま頷いた。

  

  

リオとの通信が終わり、ハヤテはファントムの始動コマンドを入力する。

しかし・・・・

  

  

            【 System Error 】 

 

 

「なっ!!!」

 

あり得ない事態だった。

ファントムの・・・特にシステムに関して、ハヤテは間違えなく世界一精通している。

日頃からベストな状態を保っている自信もあった。

なのに・・・・・・。

ハヤテは何度も始動コマンドを実行させるが、システムは息を吹き返さなかった。

その時、ジジジ・・・という嫌な音と共にディスプレイにノイズ混じりの人影が映る。

暗がりに数名の人影。

  

 

  

      『 おまえのようなこざかしいやつには ばつをあたえる 』

 

 

  

合成音声で影が語りかけてきた。

「しまった!!!」

ハヤテが一瞬早く、ファントムとの接続を強制切断。

瞬間、ファントムのディスプレイは光を失い沈黙した。

 

「くそっ!!!!やられた!!!!!」

 

ハヤテは怒りに任せ、ファントムのセンタータンクを強打する。

「畜生!!!デッドマン・トラップか!!!!」

沈黙するディスプレイは何も語らず、ただハヤテの姿を鏡写しするだけだった。

  

 

裏口に到達したリオとセスティアがお互いにカバーしながら、裏口ドアから出る。

外は未だ夜の闇と、警備灯とコンテナが作り出す深い影が伸し掛かっていた。

静か過ぎる・・・・・リオの直感がそう告げる。

だが、選択肢はない。

即決し、ハンドサインでセスティアに前進を告げる。

姿勢を低くし、2人はコンテナヤードまで駆け出していった。

 

その時、コンテナの向こうに2つの赤い光揺らぎ、ギシッという音と共に影が動いた。

横合いから青い光電が数筋走り、付近のコンテナを焦がす。

ジリジリとコンテナの側面が焼け焦げ、嫌な匂いが鼻を突く。

 

赤い眼の機械仕掛けの番人が警告なしで発砲してきたのだ。

 

「なっ!!!!!!」

 

リオが驚くと同時に手前のドロイドの頭部を撃ち抜く。

セスティアもリオの発砲と同時に後方のドロイドを正確に撃ち抜いた。

「見つかった!!!!」

リオが声を上げ、全力でコンテナの陰に入り込む。

体制を整え、お互いがカバー出来る背合わせの姿勢。

「あいつら警告無しで撃ってきた!」

リオが息を切らし、興奮気味に言う。

「警備ドロイドのくせに銃持ってるよ!!!何で!!!??」

セスティアも息を整えつつ、一時も警戒を緩めずに疑問を口にした。

「さあ!?使ってるのはアタシの大嫌いなNTPDの『水鉄砲』だったけどね!」

「水鉄砲?」セスティアが思わず聞き返した。

「あの銃、使えないのよ!まさか撃たれる側になるとは思わなかったけど!」

軽口を止め、リオが左右を警戒しながら、ハヤテに連絡をする。

「警備ドロイドに発見された!!

連中、警告無しで発砲してくるから注意して!!!!」

だが、エア・インカムは沈黙し、ハヤテから連絡が返ってこない。

 

「どうしたの!?ハヤテっ!?応答して!!!!」

  

 

その頃・・・・『タイタン・ロジテックス』B棟から、赤い光を宿した人形たちが

ギシギシと鈍い関節の唸りを上げ、好物の獲物を追う獰猛な獣の如く

コンテナヤードへと走り始めていた。

 


コンテナの隙間から、赤い光が次々と増えていく。

まるで夜が、その牙をむいたかのように——————。

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