Ep.04【06】「静かなる戦い」






これは、間違いなく拷問だ。


眠る事も、痛みで声を上げる事も許されない・・・・・そんな過酷な拷問。


淡々とした講師の声が響き渡る広い会議室。

総勢で50名以上は座って講義を受けているだろうか。

講師以外、誰一人として話す者も居らず、ただひたすらに退屈な時間が過ぎてゆく。



とにかく・・・・・・・・ 眠   い !!



昼食後の講義は午前中以上に眠い!

もっと楽しい講義にすれば良いのに!と勝手な事を考えもした。

ただ、この眠気はある程度予測出来ていたので、対策は取っていたのだ。

前日、ステラに頼み、本日のランチメニューを決めていた。

それは、激辛サルサソースの効いたクリスピーチキン・タコスと

濃い目に作ったアイスコーヒー(当然ブラック)。


昼食になり、ランチボックスを開けると、サルサソースとチキンの香ばしさが混じり合った、食欲をそそる香りがふわりと解放される。

早速、ひとつ目のタコスをつまみ、口に頬張る。

口の中で爆発するような芳醇な辛みとチキンの香ばしさが完全にマッチし

涙が出るほど辛いのに、その口の中で広がる深い旨味が多幸感を溢れさせる。

この時ほど、ステラという妹に感謝した事はない。

口内の炎を消すため、ボトルのアイスコーヒーを一口。

キンキンに冷えたコーヒーの清涼感が口内の炎を一気に制圧し

鼻腔にもコーヒー豆の香ばしい香りが突き抜け漂ってくるよう。


「ぷはぁーっ!!!!!」


ようやく息をし、旨さと香りの余韻を反芻する。

すぐさま、次のタコスへと手が伸び、またアイスコーヒーで浄化する。

リオは満面の笑顔でステラ特製のランチを存分に楽しんだ・・・のが1時間前。

 

今は下手な睡眠導入薬やリラクゼーションよりも強力な「魔法」で

睡眠に誘われるのを必死で堪えていた。

 

太ももには無数の赤みが出来ている。

眠りそうになったら、即太ももを抓りあげ眠気を霧散させていた。

だが、その効果も長くは続かなかった。


そう・・・・・・そういう刺激は慣れてしまうのだ。


今は何度抓っても、一瞬だけ痛覚が刺激され、目は覚めるのだが

数秒で強烈な眠気の波が押し寄せる。

まぶたが重い・・・・・頭が重い・・・・身体がダルい・・・・・

今、ベッドに入れたら5秒もかからず眠る事が出来るだろう。

そんな、どうでもいい事がリオの頭の中でグルグルと渦巻いていた。

 

そういえば、何時もは何かとちょっかい掛けてくる

隣の相棒がやけに静かな事に気付く。

そっと横目で見ると、ハヤテは足をたたみ、アームを腕組みしたような姿で

ジッと講師と映し出される資料を静かに見つめていた。

リオは意外だった。

ハヤテの性格を考えると、絶対に興味なんてないはず・・・と思っていたからだ。

折角、相棒が真剣に取り組んでいるというのに

自分は眠気と格闘していたなんて・・・と思うと、なんだか情けない気分になる。

リオはそんなハヤテを見習おうと決心し、少しだけ隣の相棒を指で突いてやった。

 

だが・・・・・・何も反応がない。


リオは不思議に思い、いつもの眠そうな単眼三白眼の前で手をヒラヒラさせる。

やはり反応がない。



その時・・・・・・・・リオは気付いた。

 

 

    コイツ・・・・・・録画モードにしてサボってやがる!

  

 

そういや、コイツってそんな小ズルい機能使って、全部終わった後で

10倍速で脳内再生(?)するって、ずっこい事やるヤツだった・・・・・!

関心して損した!!!なんだよ!コンチクショー!!!

 

なんだかわからない怒りが頭を駆け上がってくる。

だが、ここで何時ものように叩くと、また怒られる。

そう思ったリオは、ハヤテの目の前にタブレットを置き

壇上が見えないようにした。

 

アンタ一人だけ楽なんてさせないんだから!!!!!

 

リオの静かな闘争心に炎が宿る。

 

だが・・・・・・・・・・・・・・

 

その炎も何時しか鎮火し、怒涛の眠気の波がリオに押し寄せる。

それは何時しか抗う事が出来なくなり

リオの瞼は自然と閉じられ、浅い寝息を立てていた。

 

 

 

 

そして講師から名指しで叩き起こされ、本日何度目かの冷たい視線が

二人を射抜いたのは、それから10分後の事だった。

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