Ep.03【03】「眠り姫」
「ねぇ!ちょっと来て!!」
リオの呼ぶ声にハヤテとセスティアが反応し、小走りで駆けてくる。
二人が寄ってきたのを見計らい、リオはシート剥がした。
そこには、透きとおるような白い肌に足先まである金髪の少女が眠っていた。
少女は薄汚れた簡素なワンピースを着て、まるでベットに眠る少女人形のよう。
辺りにある人形(ひとがた)でしかないドロイド達とは比べるまでも無い。
三人は少女の姿を見て息を呑んだ。
「ねぇ・・・この娘(こ)・・・・・・人間とかシスター・・・じゃないよね?」
リオがハヤテに問う。
疑問に思うのも当然だった。
深い眠りについている「少女」は、どこからどう見ても人工物には見えない。
無理にでも違いを探すなら、白磁のような血色の薄い肌だろうか。
ハヤテがチューブ・アームを伸ばし、少女のうなじ付近を探索する。
「間違えないな、この娘っ子はドロイドだ。
首の後ろにかなり特殊なアクセスポートがある。メチャクチャ小さいがな。」
「え・・・!どう見ても普通の女の子にしか見えないのに??」
セスティアはハヤテの言葉を聞いても、いまいち信じられない様子だった。
三人はもう一度、眠れる「少女」を見返す。
だが、やはりドロイドには到底見えない。
むしろ、見ればみる程、人かシスターにしか見えないのだ。
「ねぇ・・・どうする?流石にほっとけないよ・・・・この子・・・・・」
リオが真剣な表情で二人に問うた。
「・・・・・確かに、姐ぇさんの言うとおりだよ・・・師匠・・・」
楽天家のセスティアでさえ、事の重大さには真剣にならざるをえなかった。
ハヤテは熟考する。
確かに二人の言う事は正しい。
だが・・・・この娘は恐らくかなり危険だ。
ここまで精巧に作られたドロイドは確実に特殊な事情を抱えている。
見ただけでも、全身をひどく高価な生体部品のみで構成しているのが解る。
髪さえもウイッグや代用品では無く、恐らくは自家発毛という狂気。
ただのドロイドにそんな機能は不要。
つまり・・・・この娘は「その必然性」を持たされ製造されたという事になる。
恐ろしく高価、恐ろしく精巧、恐ろしいほどの狂気。
関わっていいか・・・・ハヤテは悩む。
リオにセスティア・・・・・
この娘達にどんな災厄が降りかかるか・・・・・
だが・・・・・ハヤテの眼には「この娘」が泣いているように見えたのだ。
ああ、いいだろう・・・・・お前を救ってやるよ
お前の背負った災厄くらい
俺と俺の「娘たち」で幾らでも跳ね返してやらぁ。
そう決心した。
「よし、決めた。
この娘を引き取るぞ。いぬ子、すまんが背負えるか?」
ハヤテの声にセスティアが答える。
「大丈夫!まかせて!!」
「やっぱ、そうよね・・・
困ってる子は絶対見過ごせないもん・・・アンタってヤツは!」
リオは自嘲気味に笑った。
セスティアが少女を背負い、店から出ようとすると、店主が立ちはだかった。
「おい!てめぇら!なに勝手に持っていこうとしてんだ!!!!ああ!?
そいつはなぁ、とある方から直々に譲り受けた物なんだよ!!!
高級品なんだよ!高級品っ!!!!
見りゃ解んだろ!どう見てもLv.9・・・いや、Lv.10くらいのドロイドだ。
そんな高価な物をタダでくれてやる訳ねぇだろうがよ!!!!!!」
店主は口角を飛ばしながら、酒臭い息を撒き散らした。
「じゃあ聞くけど、幾らなら譲るってのよ!!」
リオが怒り心頭で店主に問いただす。
「そうだな・・・・500・・・・いや・・・最低でも800万は貰わねぇと合わねぇな!
言ったろ?コイツは、さる高貴なお方から直々に譲り受けたって。
800万でも安いくらいだ!」
「「800万!?」」
リオとセスティアが同時に声を上げる。
「なに言ってるんすか!!
一番奥で汚いシート被せて放ったらかしにしてたクセに!!」
セスティアも怒りで捲し立てる。
「この・・・・・クソッタレの銭ゲバ野郎・・・・・・!」
リオは今にも殴りかかりそうだ。
「へへ・・・・払えねぇなら、そこに置いていきな。
こいつは引く手あまたでなぁ・・・何もしなくても直ぐにでも売れちまうんだよ!!
どーする?えー?どうするよ?ねーちゃん達よぉ!!」
店主は下卑た笑みを浮かべ、リオとセスティアを見下ろした。
「で、言いたい事はそれだけか?」
ハヤテが今まで聞いた事の無い程、低く落ち着いた声で店主に問う。
「あ~?何だぁ??この古ぼけたドロイドは?
俺はお前達に商談をしてやってんだぜ?
店主が手前ぇっとこの商品の値段を決めて何が悪い!
金を払えねぇなら買えねぇ事くらい、子供でも解るだろがよ!?あん!?
どうなんだ!!このボケドロイドが!!!」
その言葉を聞いた瞬間、リオとセスティアに
更なる激しい怒りが宿る。
「ボケはどっちだ、この大間抜け」
ハヤテが静かな怒りを滲ませる。
「なんだと?この・・・・!」
店主が何かを言いかけたが、ハヤテの発する威圧に臆し、言葉を飲み込む。
「いいか、よく聞けよマヌケ。
この娘は間違えなく高ランクのドロイドだ。
だがな、それだけじゃねぇ。
恐らくは特注・・・・
いや、名のある名工によるハンドメイド・・・・・・・芸術品だろぜ。
お前じゃ一生お目に掛かる事の出来ない程の金がたんまりと掛かってる。
でだ、お前・・・さっき800万とか言ったな?
そんな端金、この娘の爪先だって買えねぇよ。
それがどういう意味か解るか?」
「な・・・・なにを・・・・」
店長は完全にハヤテの覇気に飲まれていた。
「解らねぇのか・・・マヌケ。
それだけの巨額を惜しみなく使えるような人物が
この娘の真のオーナー。
で、お前はそんな「芸術品」をマヌケにも倉庫の奥に仕舞い込んでたって訳だ。
ちょっとは理解できたか?」
ハヤテの怒気は高まる。
店長は完全に心を折られ、手に持っていた酒瓶を落としてしまった。
酒瓶から酒が漏れ出し、床に小さな水溜りを作る。
「もう少し、頭の悪いお前に良いこと教えてやる。
この娘の体内エネルギーは、保ってあと3日ってとこだ。
3日経てば、この娘のエネルギーは切れ、生体部品は徐々に崩壊を始める。
お前はそれを見て、慌ててどこかに捨てに行くだろうなぁ。
だが、こんな特殊なドロイドが道端に捨てていれば、当然警察が動く。
お前・・・・オメガの下部組織「青龍」の元構成員だろ?
思い出したぜ、お前の事をよぉ・・・・・・・・・・・・。
さて、元・青龍の構成員と知った警察はどう思うかな?え?店長さんよ」
店長がブルブルと震えだし、足元も覚束ないほどだった。
「 それとお前・・・・・・ 「やった」 な?・・・・この娘と 」
店長の顔に明らかな動揺の色が濃くなり、指先が細かに震えだしていた。
「もし、その事をこの娘のオーナーが知ったら?
たんまりと金を掛けた「娘」を手籠めにされたと知ったら、どう思うかな?
薄ら汚ねぇお前如きに惨めにも汚されたと知ったら・・・・・・?
間違えなく、この娘のログには残ってるぜ。
お前の馬鹿面とせっせと動かす腰なんかがなぁ!」
「やめろぉおおおお!!!わかった!!わかった!!持っていけ!!
さっさとそんな物、持っていってくれ!!!!」
店長は醜く狼狽し、「娘」から距離を取ろうと後ずさった。
そんな店長を一瞥もせず、リオとセスティアは少女を背負い、無言で店を後にする。
ハヤテも後に続くが、店を出る瞬間、店長の方を振り返った。
「くれぐれもオレたちの事は黙っとけよ。
これはお前の為でもある。
忠告じゃない。
警告だ。
もし、漏らしでもしたら・・・・・・・・・・・・・・・解ってるな?」
「わ・・・解ってる・・・何も言わない・・・・だからオレの事もどうか!・・・
どうか!」
店長は藁にも縋る思いでハヤテに懇願する。
「さてな。それはお前の心がけ次第だ」
ハヤテがそう言い残すと、4人は店を後にした。
店主は崩れ落ちたまま、震える指で安酒を掴みなおしながら、ただ小さく
「助かった・・・助かった・・・」と情けなく独り言を繰り返していた。
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