Ep.01【11】「謀略とトンチ」




 

その部屋は全体が豪奢な工芸品や調度品で飾られていた。

趣味では無いな・・・と心の中では思うが、決して言葉にはしない。

場を気定め、時を待ち、確実に目的を完遂する事。

それは無駄のない、シンプルでスマートでこそ、もっと美しいと考えていた。

故にガルシア・コーポレーション・元CEO ベンス・イミラーとは総てが合わない。

そう、ロン・ジェファーソンは考えた。

彼の美学において、無能は最も唾棄すべき対象。

無能は全てを台無しにし、無様な姿を曝す。

その対象が己の部下に存在するのは、ロンにとって苦痛以外の何者でも無い。

それが今、現実となって報告されている。


「「狼」・「阻塞」共に通信途絶。

目標はフリーウェイを降り、現在コウトウ2を西進中」


中央指揮所のプロデューサーから逐次報告が入る。

潮時か・・・・・ロンは思考する。

長身で漆黒のスーツに身を包んだ彼は、仕立ての良いグレーのロングコートを纏い

無駄のない動作で踵を返した。


「お・・・・おい!何処に行く!!!」


イミラーの引き止める声を背に受けるが、一瞥もせず豪奢な部屋から出ていく。

秘書らしき女性がドアの外で待機していた。

ロンは女性に構わず、無言のまま高価な絨毯が敷き詰められた廊下を進む。

「車の用意が出来ております」

女性はロンの後ろに付き従い歩きながら、手短に伝えた。


「デッドラインに向かう」


ロンは振り向かずに指示を与える。


「デッドラインにはダリルも呼んでおけ。何処にも行くなともな」


そう伝えると、待ち構えていたエレベーターに乗り込んだ。

女性は恭しく頭を垂れ、ロンを見送る。


「あぁ・・・・今日は良くない日だ」


ロンは独りエレベーター内で呟いた。

 



大混乱だった。

フリーウェイを降りると、各所で大渋滞が発生していて

普段から渋滞に慣れていない多くの市民が歩道や車道に溢れかえっていた。

それでもハヤテのサポートもあって、何とか前へと進み出す事が出来た。

「こりゃひでぇな。ほとんどの車の運転AIフリーズしてんじゃねぇか?」

ハヤテがライディング・サポートしながらボヤく。

行っても行っても大渋滞。

情報マップを開いても渋滞や混雑を表す色で一杯になっていた。

「まぁ、それでも何とか間に合いそうですけどねー♪」

セスティアは何処となく楽天的に状況を見ていた。

「何を言ってるんだ!あと15分だぞ!!間に合うのか!?」

やっと目を覚ましたゴールドマンが、落ち着き無くケージ内で無意味にグルグルと回り、キャンキャンと吠える。

「このまま順調に行ければねっと!」

リオは歩道からはみ出して歩く一般人を避けながら、器用にファントムを走らせた。

「そーいうのフラグって言うんですよー」

セスティアがおどけた風にリオに言う。


「そういうの信じないの・・・・・・ってぇ!!??」


リオが突如叫んだ。

大通りに即したビルの影からチンピラ風の男3人がアサルトライフルを持って

ファントムの前に飛び出しながら乱射してきた。

銃弾が周囲に当たり、周辺の人々が恐怖に怯えパニックに陥る。

「こんな場所でもかぁ!!!!!」

リオは言いながらハンドルを切り、脇の小さな路地にファントムを押し込む。


「くそ!連中、こんな所にまで!!!」


ハヤテは悪態をつきながら、素早くルートの再設定に入った。

「お嬢!ルート再修正だ!スミダ6からの進入をコウトウ8を経由するルートに変更だ!」

「えーーーーっ!戻るじゃん!ソレ!!!」リオが叫ぶ。

「仕方ねぇだろ!!あそこで網を張ってたって事は、此方のルートは割れてると

考えるべきだ!なら、大回りでも確実に近づけるほうが良い!」

ハヤテが怒鳴りながらファントムのディスプレイに変更ルートの詳細を表示した。

「出てきたヤツ、全員ぶっ飛ばすってのは?」

後席のセスティアがハヤテに問いかける。

「トールハンマーは品切れだ!あっても、こんな密集地帯で使ったらヤベェだろうが!!」

ハヤテがセスティアを怒鳴り散らしてる最中、新ルートのアキバ2の大通りに出る。


「よし、ここから直線で・・・・・・ってぇ!?」


ハヤテがナビゲートし始めたその時、またも先程と同じ様なチンピラの一団が

前方に現れて一行の行く手を塞ぐ。


「なんだコイツら!!!!」


リオが叫ぶ。

「左だ!!!!」

ハヤテが即座に対応し左の小道に入り込む。

それから同じ事が数度起こり、今はビルとビルの隙間の路地に身を隠していた。

「あと2ブロックなのに!!!」

リオが憎々しくハンドルを叩く。

「お・・・・おい、本当に間に合うのか?おい!」ゴールドマンが慌てながら問う。


「だまってろぃ!!」


その言葉をハヤテが怒声で制す。

「お嬢・・・・いぬ子・・・・これを見ろ」

「ん?」「はい?」リオとセスティアがディスプレイを覗き込む。

そこには☓印が付いたマップが表示されていた。

「この印が襲撃されたポイント。で、こっちの青い線が今から行くルートだ」

ハヤテが真剣な口調で説明する。

「どういう事?」リオが尋ねる。


「間違いなく、オレ達は罠に誘い込まれてるって事さ」


ハヤテがディスプレイを叩きながら、青いルート上を拡大させる。

「この地点・・・・チヨダに抜けれる細道・・・・・

待ち伏せには持って来いだろう?」

ハヤテが示した場所は車一台が通れる程度の細道だった。

確かにここに誘導するようにチンピラ共を配置したように見える。

でも何故・・・・?当然の疑問だった。

「じゃあ何で路上で襲撃した時に殺っちゃわないの?」

セスティアが疑問を口にする。

「恐らくだが・・・今回の指令を出してるヤツは確実な仕事がお好きなんだろうぜ

今回は犬っころの死体をご所望って訳さ」

ハヤテは淡々と状況を説明する。


「ヒッ!!」


ゴールドマンが短い悲鳴を上げケージの格子に鼻をぶつけて縮こまった。

「でも、どうする?これ以外のルートは?」とリオ

「もう迂回してる時間は無ぇ。強行突破か死か・・・」

ハヤテの声が珍しく小さくなる。

こうしていても時間は刻々と過ぎてゆく。

素早い決断に全員が頭を悩ませた。

その時・・・・・リオはハヤテの頭部に「ある物」を見つけた。

数秒考え、とある決断が頭に浮かぶ。


「この手でいくか・・・・・!」


そう言うと全員がリオを見た。

「お嬢・・・・なにか良いトンチでも浮かんだのか?」

ハヤテが問う。

「んふー❤ アンタもたまにはフォワードの気持ちが判るかもねー♪」

イタヅラっぽく笑うリオの表情にハヤテは悪寒を感じずにはいられなかった。


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