朝を待つ


 校舎から出ると、校門の前に椿と泰介の姿が確認できた。



「2人とも!」



 僕は思わず駆け寄る。



「無事だったのか?」


「もちろん」


「当たり前だろ。めちゃ元気だよ」


「そっか。良かった……」


「あれ、お前泣いてね?」


「泣いてない」


「あっ、ほんとだ。ちょっと目が潤んでる」



 2人に揶揄われて僕は目を擦った。その後、2人の後ろに静佳が経っていることに気づく。



「静佳!お前、大丈夫なのか?」


「はい。平気ですよ」



 そう笑う彼女の頭がきらりと赤く光って、思わず後ずさった。その様子が面白かったのか、クスクスと笑う彼女は教えてくれる。



「これ、血糊なんです」


「血糊って、ホラー映画なんかに使われるやつか?」


「はい」


「この子、継奈とグルだったんだよ」


「……はっ?」


「そうだよー」



 驚く僕を横目に、継奈は静佳の肩に手を置いた。



 その後の説明を要約すると次のようになる。ある日忘れ物を取りに夜の学校に入った継奈は、僕ら3人が教室で佇んでいる姿を目撃する。気になって何日か来るうちに、3人はそれぞれ自殺願望に近いものを抱いていることを知った。そこで騒動のようなものを起こし、死の恐ろしさと生きることの大切さを伝えたかった、というわけだ。



「ほら、人間って死に際に走馬灯見ることで人生振り返るじゃん。それでやっぱ死ななきゃ良かったって後悔する人は多いらしいよ。特に飛び降り自殺とかさ」


「だからデスゲームか……。にしても、ちょっとやり過ぎじゃねぇか?寿命が縮んだよ」


「そうだね。次からは気をつけるよ」


「もう2度とやらないでくれ……」


「んー、分かんないなぁ」



 曖昧な返事をした後、継奈は不意に僕らに訊いた。



「どう?これでも死にたいって思う?」



 僕らは顔を見合わせ、それから首を横に振る。



「走馬灯に近いものを見てしまった以上、今は生きたいとしか思えない」


「それに、生きてさえいれば何だってできるって気づいたからね」


「しばらくは毎日に感謝しそうだな」



 口々に感想を述べる僕らに、継奈は「そっか」と嬉しそうに微笑んだ。それから徐に涙ぐむ。



「えちょ、どうしたの?」


「ご、ごめんっ。みんな優しいなって……。ほんとは、こんなの、私の自己満足にすぎなかったんだけど……」



 本心を吐露した僕らは、それでも継奈への感謝が絶えなかった。



「やり過ぎだったにしろ、生きる大切さに気づけたからさ。ありがとうね」


「俺らは感謝してるよ。お前に。だから泣きやめ」


「う、うん……」



 全員が落ち着いた後、「帰ろう」と先陣を切ったのは継奈だった。



「そうだな」


 

 僕らは学校を出る。



「それじゃあ、また明日」



 そう口にした後、それぞれの帰路を辿った。



 僕らの夜は、ちゃんと終わることができた。



 そして今度は、朝日が昇る。


        

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夜間学校と闇に溶けたい子供たち 葉名月 乃夜 @noya7825

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