What can I say…?〜100の願い〜

白星雨華

彼女の“願いは…”

「私の、100の願いの、残りを、叶えて…。」彼女―玲奈は最後にこの言葉を私に残してこの世から去ってしまった。

100の願い、それは死ぬまでに叶えたい事をノートに書いて叶えていくという、病院側が患者に生きる希望を見出す為に作らせたものだ。その願いを作る時に、もし全て叶えられなかった場合の事も考えて患者が誰かに託す事も決まっていた。それが、まさか私に託されるなんて…。


 3日後の玲奈の葬式が終わった後、彼女の家族から【100の願い】と表紙に書かれていたノートを貰った。家族から“彼女の未練を無くして欲しい”と言われた。私は黙って頷いた。


 家に帰ってページをめくると、玲奈の文字で100の願いが書いてあり、メモに「零華へ、残りの願い、叶える順番はどれからでも良いんだけど、100個目の願いは最後に1人で叶えて欲しい。」と最後の力を絞って書いた様な文字が書かれていた。ノートを見ると、最初のページに100個の願いが書かれていた。赤線で引いてあるものは、恐らく叶えた物だろう。残りの願いには、話題のパンケーキが食べたい、テストで100点取りたい、友達とプリクラ撮りたい、ダンスを踊りたい等、彼女らしい願いが30個程残っていた。


 次の日から、彼女の願いを叶えていった。そして、最後の4つを叶えに、彼女との共通の友人の優に頼んでプリクラを撮り、話題のパンケーキを食べた。パンケーキは友達と食べたい、とは書かれていなかったが私が流行り等に疎いから教えて貰う代わりに優の分までお金を払うのだ。優は何回も遠慮したが、お礼がしたいからと強く言ったら渋々了承してくれた。パンケーキが来るのを待っている際、玲奈の話になった。

「ねぇ零華?」

「どうしたの?」

「玲奈さ、やり残した事無いと思う…?」

「聞くの急だね、なんで?」

「だって、急に余命宣告されて、入院生活になって…うちだったら耐えれないよ。」

「…」

残ってる願いには、友人に入院生活の事、100の願いの事を話したい、という物がある。でも、今話して良いものなのか…。

「零華、玲奈と一番仲良かったでしょ?だから、何か知らないかなって、良ければ、教えてくれない…?」

「…玲奈は、入院生活、凄く楽しかったって。ずっとベッドにいるんじゃなくて、他の患者さんとか、幼い子とかとお喋りしたりしてたみたい。私、お見舞い結構行ってたけど、ずっと笑ってて、楽しそうだったよ。」

「…そう、なの?」

「うん、それと…優と喧嘩した事、凄い後悔してたよ。なんであんな事言っちゃったんだろうって。仲直りしたいって言ってたよ。」

「…え、なんで言ってくれなかったの…?」

「私は言ったよ、玲奈が伝えたい事があるらしいからお見舞い行ってあげてって。」

「…そっか、玲奈、ごめんね…ごめんね。」

「きっと、優の事許してるよ。」

「なんで、分かるの…?」

「だって…家族が来れない代わりで玲奈の最期に立会ってたんだけど―あの事、許してるからって優に伝えて欲しいって言われたから。だから、大丈夫。あの子は泣顔より笑顔の方が好きだったはずだよ。一緒に笑ってあげよ、ね?」

「ッ!うん、そうだよね…!ありがと!」

優に笑顔が戻った時、丁度パンケーキが届いた。果物とかクリームが沢山のってて凄く美味しそう。

「いただきます!ッあ…フフッあははッッ!」

私達の声が見事に被った。一頻り笑ってからパンケーキを食べ始めた。甘すぎず、女子高生1人でもぺろっと食べれるくらいだった。優が食べ終えた頃、玲奈の願いを叶える為に話さなきゃ。

「優、話したい事あるんだけど、いい…?」

「?良いけど、どうしたの?」

「実は玲奈、100の願いを作ってたの。」

「…え?」

「今日、優を誘ってプリクラ撮ったのも、パンケーキ食べたのも、玲奈の願いだったの。優のお陰で、叶ってない願いが後1個になった、ありがとう。」

「願いって、死ぬ迄に叶えたい事って事?」

「うん、でも、残りが自分で叶えれないって分かったから、私に託されたの。それがあの子の最後の言葉の内容だったよ。」

「…そう、だったんだ。玲奈、ちゃんと楽しんでたんだね。それで、最後の願いは何なの…?」

「私1人で叶えてって言われてるんだけど…海に行って、手紙を零華に渡すってやつ。多分、海の近くの手紙取置所の事なんだろうけど…。自信無くて。」

「あ、そういえば玲奈、入院する前に手紙取置所に手紙渡したって言ってたよ。今日の帰りに行ってきたら?夜の10時までやってるらしいし。」

「本当!?なら、行ってみる!ありがと!」

「その代わり、願い叶えてきてよ?」

「勿論!」

会計をした後、私は優と別れてすぐに海に向かった。この街は電車1本で海に行ける。今から行けば7時ぐらいには着くだろう。電車に乗った時に親には連絡したし、後は最後の願いを叶えるだけ。―早く、海に行きたい。


 7時頃、海の近くの手紙取置所に着いた。そこで、玲奈の名前と自分の名前を出し、手紙を受け取る。封筒には、零華へ。海の近くの星が綺麗に見える丘で見てね、と書いてあり、これも願いだろうと、丘に向かった。丘に向かう途中、波の音と風が心地よかった。月が海に反射してるのも、綺麗だった。

丘に着いて、早速手紙を読む。

―零華へ

この頃にはもう私はあの世に行ってるかな。零華に伝えたい事があって手紙を書いたよ。

中学の頃から仲良くしてくれてありがとう、高校でも、ずっと一緒にいてくれてありがとう。零華のお陰で毎日が楽しかったよ!私に、病気が見つかった時、傍でずっと励ましてくれたよね。あれ、めっちゃ嬉しかった。私に生きる希望をくれて、ありがとう。

…まだ半分程しか読んでいないのに涙で手紙が見えにくくなっている。読み進んでいくうちに玲奈の優しい言葉が、温かい言葉がどんどん私に刺さる。

―最後に、私が本当に伝えたかった事、伝えるね。

「最後の、言葉、読ま、ないと…。」

―気持ち悪いかもしれないけど…私は、ずっとずっと、零華の事が好きでした。大好きでした。

「…え、嘘…。まさか、玲奈が私の事、好きだったの…?」

―零華と色々したかった。デートしたり、手繋いだり、ハグしたり…キスだってしたかった。いっぱい思い出作りたかった。でも、病気で叶わない事が分かっちゃって、辛かった。想いも伝えられないなんて嫌だった。だけど、直接言う勇気は無かった。だから、手紙に書いたんだ。もし、奇跡的に生き残れた時は、私がここで読もうと思って。

…最後の願い、叶えてくれてありがとう。ずっとずっと好きでした。付き合いたかった。でも、私はもういないと思うから、他の人と幸せになってね。私、いないけど、前を向いて、未来へ歩み続けてね。

玲奈より―

「…なんで、なんで…玲奈がいなくなった時に、私が…玲奈に抱いてた感情が分かっちゃうのかな…。」

私は、悔しさ、悲しさ、そして後悔でぐちゃぐちゃだった。涙だってとまらなかった。とめたかったのに、とめられなかった。玲奈は笑顔が好きなんだから、笑わなきゃ、と思っても涙が流れ続けた。暫く、私は1人で泣き叫び続けた。あの時、私が玲奈に気持ちを伝えていれば、こんな気持ちににならなかったのかな…。


玲奈、私は…貴女が生きている間に、

―何を言う事が出来ましたか。貴女の願いを、1つでも多く叶える事は出来ましたか。貴女を、笑顔にする事は出来ましたか。

この問は、もう本人には届かない、けど…

「…玲奈…私も、ずっと、前から、貴女の事が、好きでした…。私の事、好きに、なってくれて、ありがとう…ッ。天国でも、幸せに暮らしてね…ッ。」


彼女の、泣きながらも想いを伝える声は、満天の星空に消えていった。そして…


―空に一筋の光が、まるで返事をするかの様に流れた。

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