第7話 襲撃

 ミサキとユキに挟まれて、俺はほとんど眠れないまま、ただ天井を見つめていた。


 左にいるユキは、安心したように、規則正しい寝息を立てている。


 その手が、俺の腕をそっと掴んでいた。


 一方、右にいるミサキは、まだ眠りにつく気配がない。


 俺の身体にぴったりとくっつき、その熱気が伝わってくる。


「…ねぇ、ユキって、あんたと出会う前、どうやって生きてたの?」


 ミサキが、小さな声で囁いた。その声は、隣で眠るユキに聞こえないように、俺にだけ向けられていた。


「…さあな。俺が会った時には、もう限界だったみたいだ」


俺は、素っ気なく答えた。


「ふうん。…あんたがそばにいなきゃ、すぐ死んじまうってことね」


 ミサキの言葉に、俺は何も言い返すことができなかった。


 彼女の言う通り、ユキは俺がいなければ、この終末世界で生き抜くことはできなかっただろう。


 そのとき、俺の【危機感知】が、激しく警鐘を鳴らし始めた。


 これは、ただのウォーカーではない。


 その気配は、かつて俺が出会ったどのウォーカーよりも強力で、異質だった。


 俺は、飛び起きるように身体を起こした。


 その動きに、ユキも、すぐに目を覚ました。


「どうしたの、タクヤさん?」


ユキが、不安そうに俺を見上げる。


「…来るぞ」


 俺の言葉と同時に、ショッピングモールの入り口のガラスが、鈍い音を立てて砕け散った。


 そして、その向こうから、一人のウォーカーが現れた。


 そいつは、他のウォーカーとは一線を画していた。


 身長は二メートルを超え、全身の筋肉は異様に膨れ上がっている。


 まるで、何かの兵器を組み込まれたかのように、動きが素早く、力強い。


「ひっ…」


ユキが悲鳴をあげた。


 ウォーカーは、その悲鳴に反応するかのように、まっすぐユキに向かって突進してきた。


「ユキ!」


 俺は、アックスを構え、奴の進路を塞ぐように動く。


 しかし、奴の動きは、俺の想像をはるかに超えていた。


 ウォーカーは、俺を無視して、ユキに襲い掛かろうとする。


ガキンッ!


 そのとき、ミサキの日本刀が、ウォーカーの腕を切り裂いた。


 だが、その一撃は、奴の皮膚をわずかに傷つけただけで、致命傷にはならなかった。


 ウォーカーは、怒りに満ちた唸り声を上げると、ミサキに向かって、その巨大な腕を振り下ろす。


「ミサキさん、危ない!」


ユキが叫んだ。


 ミサキは、その一撃を紙一重でかわすと、素早く後退した。


 しかし、ウォーカーの動きは速く、ミサキを追い詰めていく。


「…くそっ!」


 俺は、アックスを振りかざし、ウォーカーの頭を狙う。


 その一撃は、見事に奴の頭に命中した。


 だが、奴は怯むことなく、俺の攻撃を受け流すと、再びユキに向かって突進してきた。 


ユキは、もう逃げ場がない。


 ウォーカーの巨大な手が、彼女の華奢な首を掴もうと、ゆっくりと、しかし確実に伸びていく。


 そのとき、ミサキがユキの前に飛び出した。


「馬鹿!何してんだ!」


俺は叫んだ。


 ミサキは、その言葉を無視して、日本刀を両手で構え、ウォーカーの腹部に突き刺した。


 その一撃は、奴の身体を貫通し、黒い血が飛び散る。


 ウォーカーは、痛みに唸り声を上げる。


 その隙に、俺はアックスをウォーカーの頭に叩き込み、ようやく奴を倒すことができた。


 ウォーカーが倒れると、辺りは静寂に包まれた。


 ミサキは、息を切らしながら、ユキの前に立っていた。


 彼女の顔は、血まみれだったが、その瞳は、ユキを守り抜いたという、強い意志に満ちていた。


「…馬鹿じゃないの」


 ユキは、そう言って、ミサキの腕を掴み、涙を流した。


 ミサキは、そんなユキの頭を、乱暴な手つきで撫でた。


「…当たり前だろ。仲間なんだから」


 その言葉に、ユキはミサキの胸に顔を埋めた。


 二人の間には、昨日までの緊張感は消え、深い絆が生まれていた。


 この終末世界で、俺は最強の力を手に入れた。


 しかし、本当に強いのは、俺の力に頼るだけでなく、大切な誰かを守るために、命を賭けることができる者なのかもしれない。


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