第2話 開拓地と初めての魔石
カイルが暮らすのは、ルルーレン王国の辺境にある新しい開拓地だった。
五年も経てば、自分の置かれた状況が少しずつわかってくる。
この地は王都から遠く離れた荒野。
切り開かれたばかりの土地には、木の小屋が十数軒並ぶだけで、まだ「村」と呼ぶには心許ない。
畑も開墾の途中で、雑草や石を取り除く作業から始まったばかりだ。
父は麻布の服をまとい、鍬を担いで日がな一日畑を掘り返している。
その背中は逞しいが、手はひび割れだらけだった。
母もまた擦り切れた衣服を着て、毎日水汲みや食事の支度に追われていた。
食卓に並ぶのは、麦粥や干し野菜ばかり。
それでも二人は笑顔を絶やさず、俺を大切にしてくれる。
「カイル、今日は一緒に畑へ来い。五歳にもなったんだ、少しくらい鍬を振れるだろう」
父に言われ、俺は小さな鍬を抱えて後ろをついていった。
その道中。
「……ぷるり」
半透明の塊が草むらから這い出てきた。
陽の光を受け、体の奥で青白い輝きがゆらめいている。
「スライムか。王国の辺境にはよく出るな」
父は眉ひとつ動かさず、鍬を振り下ろした。
ぐしゃり、と鈍い音。
スライムはあっけなく潰れ、その体はぬめりとなって消える。
残されたのは、一粒の小さな結晶、魔石だった。
「ふん、またこんなガラクタか」
父はそれをつまみ上げ、投げ捨てようとする。
「ま、待って!」
思わず声が出た。
俺は父の手にすがりつき、必死に止める。
「カイル……これが欲しいのか?」
「うん、お願い!」
父は不思議そうに目を細め、やがて苦笑した。
「誰も欲しがらん気味の悪い石だが……まあ、お前が大事にするならいいだろう」
そう言って渡されたのは、冷たく硬質で、微かに命の鼓動を感じるような青白い魔石。
(これだ……! ついに、手に入れた)
ルルーレン王国の辺境。
何もない開拓地の片隅で、俺は初めて、ゴーレム創造への“素材”を手に入れたのだった。
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