憂鬱と星空(と目薬)

瀬乃 菊実

憂鬱と星空(と目薬)

 深夜二時ほど社会を恨みたくなる時間帯はない。

 眠気の代わりにきた一種の快楽的な集中状態も、外の公園にたむろする若者のざわめきも、もはやなくなってしまい、手元に残ったものは深夜まで作業をしなくてはならない悲しさだけだった。


 作り終わった原稿を編集部に送付し、ライターとしての仕事を終える。目薬をさす。

 そうして夜食を作る。六枚切のパンをトースターに放りこみ、フライパンに卵を割る。フライパンのふたをとじ、食パンをトースターから取り出す。パンを大体半分に切る……。うっかり指に包丁が当たり、左中指の中間の位置に傷ができた。気を取りなおし塩をふる。 こうして雑に作ったサンドウィッチを食べながら空を見る。マンション群と満天の星空。

 深夜三時ほど、世界があたたかくなる時間帯はない。

 仕事さえすれば、食の配給も、素敵な目薬ももらえるのだから。

 きっと私の他にも、官営工場の人工知能の管理者や、インターネット治安維持を担当する特設機関の下働きが、私と同じように目薬をさし、オーロラだの、夜食のラーメンだのを見ているのだろう。そしてそのまま、配給食のパウチの片付けなど忘れたまま、幸福に眠りにつくだろう。


 嘘つき、情報操作だの言われても、こんな風に、だましだましやれば悪くはない職だろう。倫理的、社会的犯罪? 知ったことか。

 考えているとネガティブになってきたのでもう一度目薬をさす。そして毎朝気が狂いそうなほど大きな音を鳴らすめざましをセットする。


 まぶたを閉じれど、そこにはオリオン座が見えた。

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憂鬱と星空(と目薬) 瀬乃 菊実 @seno_kinmokusei

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