エピローグ

 職場近くのとある居酒屋。


 賑やかな店内に、かわいいわんこ系男子と硬派なイケメンが顔を突き合わせていた。


「ほら、不破さん、今日はとことん飲みましょう!なんてったって俺たち『敗北者同盟』ですから!」

 

 言いながら、綾瀬はビールを喉に流し込む。


「だから。やめろよその言い方」


 不破は顔をしかめてから揚げをほおばる。


 綾瀬は、

「今年はダメでしたけど。来年のクリスマスはきっと俺が隣にいます」

 にんまりしながら挑発する。


 不破は眉間に皺を寄せながら、綾瀬を睨む。

「いや、俺かもだろ」


 一瞬の間を置き、二人はふっと笑う。


 綾瀬は枝豆に手を伸ばしながら、これだけは言ってやりたいと思っていたことを言った。


「不破さんって。諦めが悪いですよね」


 不破が咳き込む。

 綾瀬はその様子ににやりとした。


「お前……どの口でそれを言うわけ」


 綾瀬は、ふふっと声に出して短く笑う。そして自分の手元に視線を落とした。

「でも、まずはこっち、向いてもらわなきゃ」


 不破が黙ったまま、綾瀬の顔をみる。


 綾瀬は握りこぶしを作ると、宣言した。

「お友達ポジション、そこから頑張る!」


 途端に、不破の片方の肩がずるっと下がる。

「お前、そこからかよ……」


 呆れ半分な言葉に、綾瀬はムキになって答えた。

「ずるいですよ不破さんは!同じ部署の先輩後輩で!俺なんか他部署の年下ですよ!」


 きっと酒のせいもある。勢いに任せて言う綾瀬の顔は赤い。


 それでも枝豆をつまむペースを変えない不破に、綾瀬はむくれながら食いかかる。


「で、不破さんは?」


 不破は手を止め、テーブルの上で指を組む。まっすぐ綾瀬を見据えて、

「俺は――精進するしかねぇな」

 と言った。  


 一時見せたその真剣な眼差しに、綾瀬は思わず息を飲む。


(……この人、やっぱりかっこいい)


 綾瀬はぶんぶんと頭を振る。


「とにかく負けませんからね」

「やれるもんならやってみろ」


 2人ともジョッキを口に運び、ぐびっと飲み干す。ぷはぁーっと同時に息を吐く。


 それから、、お互い「譲らねぇ」と書いてある顔でにやりと笑いながら箸を進めた。


 そしてそれぞれに思う。

 ――及川が想いを寄せているのは、どんな奴だろう。


 それはまた、別のお話。

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わんこと先輩の視線の先 音野彼方 @OtonoKanata

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