Interlude 音の手紙

 いつもより少しだけ早い帰宅。

 誰もいない真っ暗な部屋に、灯りをともす。


 温かな光に浮かび上がるのは、木目のブラウンが静かに浮かぶ電子ピアノ。

 及川は静かに腰を下ろし、蓋を開いた。


 譜面台にはスマホを置き、昼休みに送られてきたメッセージをもう一度見返す。

 気づけば顔がほころんでいた。


 ヘッドホンをつけ、深く息を吸う。


 及川が座ったのは、いつもより左側。

 右隣には、今はいない「その人」の存在をイメージする。


 録音を始め、鍵盤に指をのせる――。

  

 低く柔らかな響き。

 そこへ和音がそっと寄り添い、流れをつくる。


 いつか重なるはずの「旋律」を頭の中で耳を澄まし、そっと支え、引き立てるように。  


 音が満ちる。

 それは、遠くにいる人へ届ける手紙。


 送信を終えると、及川の胸は温かく波立っていた。


 ――これで、「その人」は自分の音を聴きながら重ねることができるはず。


 微笑みが自然にこぼれる。

 耳の奥には、まだ共鳴する旋律が響いていた。


 いつか、本当に隣で奏で合う日のことを思い描きながら。

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