第28話試験と恋バナ
「そういえば、もうすぐで期末試験よね」
穏やかな光が学園を包み込む昼休み。話題は期末試験に移る。
毎年、球技大会前には期末試験がやってくる。この時期のせいで、球技大会に力を入れた生徒が赤点になるという事態が発生し、一度は行事スケジュールのリスケが考えられたほどだ。
俺は勉強はできるわけではないが、できないわけでもない。強いていうなら、中の下ぐらいだ。
「毎年この時期は忙しいから、みんなせわしなくなるのよね……あー」
「まぁ球技大会と被っちまってるからな。ましてや、今年は一際熱が入ってるみたいだし……はい」
「んー……ふぁひふぇんひょふぇ」
「……あの、如月?俺いつまで食べさせればいい?」
「私が満足するまで」
威厳たっぷりな普段の如月はどこへ行ったのやら。如月は俺の餌付けを待って口を開けている。
右手に持った箸で、如月の小さな口へときんぴらごぼうを運ぶ。
艶のある唇の内側から見える色の良い舌はなんかこう、官能的だ。……変な想像はよしておこう。こんな人気のない空き教室でその気にさせたら、押し切られかねない。
「まぁでも、今年はちゃんと勉強しないとね。赤点取ると、今年は大会返上して補修だし」
「えっ」
「日向くんは心配する必要ないでしょ?そこそこ勉強できるし」
「……あぁ、俺は心配ないんだ。俺は、な」
含みのある俺の言い方に、如月は小首を傾げた。
そう。我がチームにはとんでもない馬鹿が二人いる。あの二人が欠けてしまえば、我がチームは大幅な戦力ダウンどころか、出場すらできない。……これは困ったぞ。
「……如月?」
「何?」
「……今日は先に帰っててくれ」
「……浮気?」
「ちげーよ。……ちょっとやることがあるだけだ」
▼▽
時は過ぎて放課後。球技大会バレーチームの俺達は皆でファミレスに訪れていた。
目的な期末試験の対策。綺羅と千堂の馬鹿二人に対して、赤点を取らないような対策を講じる必要がある。
「ぶ~、なんで答えが違うんだよ……バスケみてーにうまくいかねー!!!」
「綺羅くん、そこはこの公式を使うところで……」
「……あ゛ー!文字から気持ち読み取れたら苦労せぇへんわ!」
(ごもっともだな……)
尼崎と竜崎を中心に、試験対策の指導が行われる。が、馬鹿二人にはどうにも響いていないらしい。
決して二人の指導が分かりにくいわけではない。二人の勉強に対する理解力と、モチベーションが少ないだけなのだ。
「くっそ……蓮人~助けてくれ」
「俺に言われても困るんだが……」
「じゃあ翔ちゃん助けて……」
「……大分ぶっ続けで勉強してたからね。少し休憩を挟んでもいいんじゃない?」
「おー!そうだ、そうだよ!そろそろ休憩するべきだ!」
「おっしゃ、なんか追加で頼もうぜ!」
(休憩になるって分かった途端に元気だなこいつら……)
猫宮の提案で休憩を挟むことに。
休憩の間、スイーツやらポテトやらをつまみながら俺達は雑談に花を咲かせた。
同じクラスとはいえ、こうして六人で話すというのは初めての事。なんだかんだ知らないことだったり、意外と共通している話題があったりと以外にも盛り上がりを見せた。
そして話題は、思春期の男達らしいものへと変わる。
「なぁ、お前ら好きな人いる?」
「修学旅行の夜に話すやつだろそれ……」
「いいからいいから。尼崎とか、あんま浮ついた話聞かないよな?」
「僕はそういうのとは無縁な生活をしてるからね……」
愛想笑いを浮かべる尼崎だったが、俺は知っている。彼の恋が人知れず玉砕してしまったことを。
「竜崎とか、女子からの人気高くね?告白とかされないの?」
「度々、受けたりする」
「ひゅ~!流石、誉はモテるなぁ」
竜崎はそのクールな顔立ちと、それに反するように以外にも天然な性格が人気を呼んでいる。女子からの人気も高く、度々告白されているらしいが彼女はいないらしい。
「……竜崎くんは彼女とか興味ないの?」
「俺の恋人は三段跳び。女にかまけてる暇が合ったら俺は宙を舞う」
「おぉ……筋金入りの陸上馬鹿やな!」
「たかやんに言われたくない」
「翔ちゃんは彼女とか欲しくないの?」
誰に対してもフレンドリーな綺羅はなんの遠慮もなく切り込んでいく。彼の良いところであり、悪いところでもあるだろう。
猫宮はスマホをいじりながら少し考えるような仕草を見せる。そしてなんの躊躇いもなく答えた。
「いるよ」
「えっ!?翔ちゃん彼女いるの!?どんな人!?」
「素直じゃないけど、ちゃんと仲間想いな人、かな」
「進んでんな~くっそ、俺とたかやんも馬鹿じゃなければ……!」
綺羅と千堂は容姿こそ優れているものの、その知能ゆえに女子から異性として見られることは少ない。
悲しいかな、『遠目で見ている分には一番良い』とまで言われる始末。なぜか彼女がいないランキングを作ったら堂々たるツートップを飾ることになるだろう。
「お前らは面だけはいいんだけどな……」
「ちゅーか、一番気になるのはお前や蓮人!如月さんとはどうなんや!」
「どうって、別に普通だけど……」
「普通ってなんやねん普通て!教室でイチャコラして、昼休みは一緒に弁当食べて、駅まで一緒に帰ったりする男女が普通?ざけんなよ朴念仁!」
……確かに、今考えてみれば俺と如月の関係は異常だ。
ちゃんと告白したわけでも、されたわけでもない。如月からの惜しみない愛は感じることができているが、俺からなにか返せただろうか?
かつて自分と比較して割り切っていただけに、自分は隣にいていいのだろうかと疑問に思う。
母さんを失ったあの日から進めていない自分と、悠然と前に突き進む如月。俺は如月の隣に立つ資格があるのだろうか。
急に不安に襲われた俺は、ぶんぶんと頭を振って思考をシャットアウトした。
「……如月さん、前と随分雰囲気変わったよね。前は近寄り難い感じもあったけど、最近はなんか雰囲気が柔らかいっていうか」
「分かる分かる。なんか、恋する乙女って感じ」
猫宮の呟きに、尼崎が頷いて笑う。その横顔はどこか寂しい。……すまん尼崎。お前の手紙は今頃灰になって如月家の庭に撒かれたよ。
「いいなぁ~俺も彼女欲しい……」
「キラリンは馬鹿だから無理」
「つめてーな竜崎!こんな俺の事だって好きになってくれる素敵な人がいるはず……」
「でも、この学園にはいない」
「そんな事冗談でも言うなっ……」
「……綺羅くんは気になる人いるの?」
「ん~そうだなぁ……あ、4組の
「奈切って、
ちなみに、最近まで天野川学園の美少女は三人かトップを張っていたが、最近になって男子からの天音の評価が鰻上りに上がり、四人になったという経緯があったりする。
俺の記憶には、あの上品な笑顔が印象に残っている。意外とくだらない事で笑うんだよな……
「キラリンには高嶺の花」
「そりゃ分かってるけどよ……やっぱり守ってあげたくなっちゃうじゃん!」
「お前に守られても嬉しないけどなぁ……」
「お前の意見は聞いてねぇんだよ!なぁーどう思う蓮人……蓮人?」
「……ん?何?」
「奈切さんの話!……なんか共通の趣味でもあればなぁ」
「あいつ漫画とか結構好きだぞ」
「マジで!?よっしゃ、なら今から……」
「はいはいそこまで。そろそろ勉強しようか」
「え~……もうちょっとだけ」
「ダメ」
「ケチ……」
脳裏にこびりつくか弱い少女の事を思い出しながら、俺は再び試験勉強に取り組むのだった。
▼▽
「……あれれぇ?レンくん?」
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