第22話崩壊と罪悪
≪星海side≫
淡い照明が満たす空間で、星海は後悔していた。
間違えは正せばなんとかなる。
そんな安易な考えは見事に日向と如月に打ち砕かれ、自分が取り返しのつかない失態をしたと気づいたのはつい先日の事。
あれから数日。星海は絶望の淵を揺蕩っていた。
自分は何故あんなことをしてしまったのだろう。あの日あの時、自分を優先せずに告白を断らなかったら、結末は変わっていたのだろうか。
そんな後悔をぐるぐると繰り返しながら、星海は快楽の波に沈んでいた。
気分がどうあれ、快楽は星海の絶望を紛らわしてくれた。
絶望で寂れた心を埋め尽くす快楽に、星海はずぶずぶと依存していく。
今や彼女の心にあるのは後悔と自責の念のみ。不安定に揺らぐ精神を支えてくれるのは快楽の波だけだった。
行為の後に残るのは温もりではなく、虚無感のみ。
次第に薄れていく快楽が星海の心を満たしてくれるのは一時的なものだ。すぐに彼女の心は後悔に揺さぶられる
「……お前これ、自分でやったの?」
隣に寝転んだ上椿が星海の腕にできた一文字の傷をなぞる。無数にできたその傷は、彼女の不安定な心情を表していた。
「……だったら何?」
「……いや、別に」
面倒な気配を感じた上椿はそれ以上言及することはなかった。
今や星海を支えているのは上椿との肉体関係のみ。
上椿から求められることだけが星海の生きる意味。彼からの連絡が無い日はとてつもない虚無感と喪失感が襲ってくる。
薄れていく感情の中で上椿との関係だけは失わないようにと、星海は彼への連絡を欠かすことはなかった。
しかし、それも今日まで。
「……なぁ、もう終わりにしね?」
「……ぇ」
その一言に、星海の表情が曇っていく。
途端に襲って来た不安感に星海の手が震え始める。
「な……なんで?私なんか悪い事した?」
「俺もうお前とは飽きたわ。お前も十分遊んだろ。そろそろ他の男の所にでも行けよ」
「嫌だよ!そんな、私は良太郎と……」
「……俺、めんどくさい奴嫌いなんだよ」
上椿は冷たく突き放す。
上椿が求めているのはあくまで性交から得られる快楽のみ。そこに色恋だの、恋情だのは求めていない。
上椿にとって、星海の肉体は最高だった。
相性は良いし、何度シたところで飽きないと感じている。実際、今まで抱いてきた女の中でも上位に食い込むほどの相性の良さだった。
ただ、問題だったのは星海の自分に対する態度だった。
セフレだと言っているのに、星海は上椿の事を彼氏のように扱っていた。それが上椿にとっては不都合極まりない。
面倒な感情を抱かれ、変に固執されればてこでも離れてくれない。飽きたら次へと乗り替えることを好んで繰り返す上椿にとって、これ以上に面倒なことはない。
「……ぃ、嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だっ!」
「んだよ。前言ってた日向くんとやらに縋ったらどうなんだよ?」
日向の名を突き付けられて、星海の表情は悲しく歪んだ。
この関係を失ったら、もう自分には何も残らない。友人までも利用したというのに、その結果が孤独など、星海には耐えられない。
星海の瞳からはぽろぽろと雫が落ちていく。
今まで散々周りを振り回した後に待つ最悪の結果を想像して、星海はその表情を醜く歪めた。
「嫌だ……ヤダよぉ……性格、直すからぁ……ちゃんと良太郎の言う通りに毎日するからぁ……捨てないでよぉ……」
「はぁ……そういうところだっつーの」
必死の説得も虚しく、上椿はそそくさと部屋を去る準備を始める。
星海は上椿に泣きながら縋るが、その手は軽く振り払われた。
「金は置いとく。……もう関わってくんじゃねーぞ」
「待って、りょうたr___」
ばたん、と乱暴に扉が閉められた。
目に見えていた展開ではあった。
上椿の女癖が悪い事など、噂を耳にすれば分かること。それでも自分ならば彼の特別になれると勘違いしてしまったのは、彼女が自分が一番だと心の底で信じて疑わなかったせいなのだろう。
一人取り残されたベッドの上で、汗と愛液まみれで裸の星海。ついに一人になってしまった彼女に追いうちをかけるように、喪失感と虚無感が襲ってくる。
「……私、何してるんだろ」
狂った歯車が元に戻ることはない。歯車は自分の意思で動きを変えることなど、できないのだから。
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