第11話 青い冒険③
水族館を後にして駅へ向かう道。夕暮れの光が街を金色に染め、アスファルトや建物の影を長く伸ばしていた。海風が混ざり、潮の匂いがふわりと漂う。僕と一夏は並んで歩きながら、それぞれに今日の思い出を
「理久くん、今日ね、ほんとに楽しかった」
「俺もだよ。ずっと笑ってたな」
一夏は肩を少し寄せてきた。夏の夕方の柔らかい光の中で、その細さがひどく愛おしく見えた。
駅に着くと、ホームには人々のざわめきと電車の音が混ざっていた。僕らは電車に乗り込むと、並んで座った。車内の照明はやわらかく、外の赤く染まる空を映している。
「ねえ、理久くん」
「ん?」
「今日、思ったんだけど⋯⋯私、こうやって一緒にいられる時間が、本当に大切なんだなって」
一夏の声は小さく、でも確かに僕に届いた。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「俺もだ。今日のこと、忘れたくない」
「うん。忘れちゃダメだよ」
しばらく無言で車窓を見つめる。オレンジ色の光が電車の窓を通して反射し、二人の影を座席に落としていた。
やがて、電車は徐々に夜の街へ滑り込む。窓の外は昼の名残を残した空から、濃紺の夜へ移り変わっていく。街灯がぽつぽつと灯り、遠くの海には波間の白が光っている。
「理久くん、見て」
一夏が窓に顔を近づけ、指で何かを指した。
小さな
「きれいだね⋯⋯」
「うん。今日見た魚たちやイルカ、クラゲみたいだ」
「そうだね⋯⋯でも、やっぱり理久くんと一緒に見られたって事が、一番きれいだった」
言葉をかけられると、胸が熱くなる。どう返せばいいか分からず、僕はただそっと微笑むしかなかった。
電車が駅に着き、家路につく人々の波に紛れて降りる。改札を出ると、夜風がひんやりと肌を撫でる。一夏は少し疲れたのか、僕の腕にそっと寄りかかった。
「理久くん、今日はありがとう」
「俺こそ、ありがとう。楽しかった」
「また⋯⋯行こうね」
「ああ、また行こう」
家に戻ると、窓の外には満月がかすかに光を落としていた。二人で見上げた空は、昼間の水族館の青とも、夕暮れのオレンジとも違う、静かな銀色だった。
その夜、布団に入ると今日の一日がゆっくりと思い返される。イルカショーで跳ねた水しぶき、タッチプールで慌てた手、クラゲの光に包まれた幻想的な時間──
すべてが、夢のように鮮やかで、儚く、そして愛おしかった。
「また⋯⋯明日も、こんな日が続けばいいな」
心の中でそう呟くと、夜風がカーテンを揺らし、夏の香りと潮の匂いを部屋に運んできた。
僕は深く息を吸い込み、静かに目を閉じた。夏の一日は終わったが、心の中の輝きは、まだ長く、長く続いているように感じた。
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