隣のギャルが毎日シャワーを借りに来るんだが

そえるだけ

ギャルがシャワーを借りに来た

第1話 シャワー貸してくれない?


「マジ? それウケるんだけど!」

「でしょ! まさかあんなイケメンがマザコンだなんて思わないじゃん! ご飯食べてる時に飲み物こぼして『ママ~!』だよ?」

「あはははは! 待って待ってストップ! ちょ、ほんとに!」


 楽しそうな笑い声が教室内へと響き渡る。

 もちろん俺――清水凪《しみずなぎ》の耳にも届いていて、声が聞こえていた方へ目を向ける。

 教室の教卓の辺りで数人の女子たちが集まっていた。

 全員が派手目な外見をしており、金色だったり赤色だったりピンク色だったり、多様性に富んだ髪色をしていた。

 

 大きな笑い声をあげていたのはその中の金髪の女子――柚木恵奈ゆずきえなだった。

 金色の髪を編み込んだツインテールにしており、ピンク色の可愛らしいネイル。

 化粧は整った顔のパーツを引き立たせるナチュラル風。

 制服はワイシャツの上のボタンを外しており、袖から手を出さずにスカートも曲げて見事に着崩している。

 

 所謂『ギャル』と言うものだ。


「なあ、やっぱり柚木さんって良いよな」

「分かる。高校生の体つきじゃねえだろ。特にあの胸!」

「この前さ……。俺、一瞬だけパンツ見ちゃったんだよね」

「はあ⁉ お前! ずるいぞ!」

 

 後ろから男たちの気持ち悪い話が聞こえてくる。

 だが、彼らが言っていることが分からないわけではない。

 別に好きとかそういうわけではないけれど、柚木恵奈は可愛いと思う。

 あんな子が彼女だったらという想像は年頃の男だったら誰でも想像するはずだ。

 実際まだ高校生活が始まって2か月なのに、告白をされたという話を10回は耳にしている。

 誰かと付き合っているという話は聞かないから全部断っているのだろうが。


「あーあ。柚木さんと付き合いて~」

「無理だろ。俺たちみたいなフツメンには」

「分かってるけどさ。せめて近づきてぇよ~」

 

 彼らの言葉に力が無くなっているのを感じる。

 俺は話を聞いて、少しだけ優越感に浸っていた。

 なぜなら彼らが話していた柚木恵奈は俺の隣に住んでいるからだ。

 別にストーカーとかしているわけではない。

 本当に偶然起きたことで、俺も気づいた時は驚いた。

 まあ隣に住んでいるからと言って仲良くなるというわけではない。

 特に喋ることも無ければ関わることもない。

 本当にただの『お隣さん』だ。

 そもそも彼女は俺のことを認識していること自体微妙なところもある。


「何も起こるわけないよな……」

 

 誰にも聞こえないようボソッと呟いた。



 ◆◆◆


 放課後。

 部活も入っていない俺は家の方向へと歩いて行った

 普段ならちょっと寄り道をするところだが、今日は帰っている途中で雨が降ってきたため真っすぐ帰ることに。

 家についても雨は止むことなく、むしろどんどん強くなっている。

 さすがは梅雨と言ったところだろうか。

 

 そして時刻は午後7時。

 飯でも食べようと買い置きのカップラーメンを手に取った時に、インターフォンが鳴った。


「誰だ……?」

 

 こんな時間に訪問など過去にはない。

 宅配便かと思ったけど頼んだものなどはない。

 海外出張に行っている両親からかと思ったけど、そういう時はきちんと連絡を入れておいてくれる。

 俺はドアの穴から誰が来たのかと覗いてみる。


「……え?」


 戸惑いの声が口から漏れた。

 そこには雨が染み込んで色が濃くなったワイシャツを着ているずぶ濡れの柚木恵奈の姿があった。

 表情も学校にいる時のような楽しそうな元気なものではない。

 気まずそうというのか、不安そうというのか。

 とりあえず俺はドアを開けた。

 それに気が付いた柚木さんの表情が少しだけ明るくなる。


「えっと……どうしたの?」


 尋ねてみると、柚木さんはモジモジと体をくねらせる。

 ただでさえ男子に好かれる体をしているというのに、今は雨が染み込んだワイシャツを着ている彼女。

 体のラインがより強調されているのは説明するまでもないだろう。

 俺はちょっと目のやり場に困って、とりあえず斜め上を向いて見た。

 絶景から一転して黒い雲しか映らない。


「あ、あのさ……!」


 その時、覚悟を決めたような声色で柚木さん話を切り出した。


「えっと……。しゃ、シャワー貸してくれない? 給湯器が壊れたみたいで、お湯が出なくて……」


「え?」

 

 この日、俺は隣に住んでいるギャルにシャワーを貸すことになった。

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