僕は知らない
もち雪
第1話
大都会の街の中に、とても大きな公園がある。
その公園の小高い丘の上に、公園を見渡せる時計台。
僕はそこに住んでいる猫。
ただの猫、にゃんと鳴くよ、彼女のために。
彼女は桜の花が舞い散る春から、ここ時計台に住んでいる天女様。
時計台の屋根の上で微睡んでいた、僕の上空から、桜の花びら、そして甘い香り。
そして彼女の素敵な、はごろが僕の前を通過して落下していく。
僕は、はごろもの起こす風と、魚の鱗のようにきらきら光るはごろに、にゃ――ん! と、驚き下を見る。
地上には僕の知っている、凄ーく濃い葉っぱ色のコートのお兄さん。
その前にそれは落っこちていた。
僕は撫でて貰おうと、階段に向かおうとしたその時!
キャー!
凄く可愛い声、何々?
空中を上から下へと、何かがふたたび通り過ぎる。
僕が屋根から、下を覗いた時は、凄く可愛い女の子が、お兄さんの腕の中におさまっていた。
上見て、青空、雲1つありません。
でも……彼女はうっかり屋さんだから、はごろもを持ってお兄さんから逃げちゃった。
そして大きな木の後ろへ隠れてしまう。
でも、お兄さんはそんなのしらないから、公園中を探している。
ずっと、ずっと僕は見ていた。
僕の黒い鼻に、小さな雫が、1つ、2つ、3つ、沢山!
降った時、お兄さんは諦めて帰って行った。
でも、公園から出る前に、振り返って公園を見た。
女の子は木の後ろ、そこからは見えない位置。
だから、二人は出会うことはなかった。
そして僕は、やっと時計台を降りて、彼女のもとへ。
木の後ろには彼女が居て、はごろもをぎゅって握りしめていた。
僕は彼女の前に立つ。顔を上げた女の子の、きれいなきれいな薄い茶色の瞳。
「君は、ここに住んでいるの?」
「にゃーん」
にゃんしか言えない僕は、そのまま彼女の横で一夜を過ごす。
長い夜、でも、特別な夜。雨が木の下で、当たることはなかったけど……。
僕は嬉しくて、彼女は少しだけ悲しそうだった。
そして夜空は白く、世界は生まれ変わったような1日目。
「あぁ……わたくしは……、そう……もう朝になってしまったのですね。わたくしは何をやっているのでしょう……」
僕はそこで、にゃんと鳴き、そして一生懸命、彼女の気を引いた。
彼女は猫の僕について来てくれる。凄く嬉しい。
僕の時計台は素敵なところ、猫の僕と体の軽い天女様は、時計台のうーんと高いところの部屋に行く事が出来る。
明るい朝の光の中で、公園を見下ろすと、朝の光の中で、どこかへ向かう人の群れがお魚みたいに、列をなして泳いでいく。
それを見ていた天女様は、僕を見た。
「ねー、猫さん私はここへ住んでもいいかしら?」
「にゃーん」
そう……僕は、にゃんしか言えないただの猫。
そんな僕とは違い、彼女は夕方にはファーストフードショップの店員さんになっていた。
天女様には驚かされるばかりだ。
「いってきます!」
「ただいま……」
それから毎日、元気で出かけた後は、悲しい顔をして帰って来る。
そして…………はごろも抱きしめる。
僕にはわからない、僕は猫だから。
そしていつのまにか、もう9月……。
「いってきます!」
最近、彼女は時計台の窓から飛び降りる。
はごろもがあるからといっても、僕の小さな心臓はドキドキ音を打ち鳴らす。
心臓の音がおさまる間に、外の景色を見る。
天女様が落ちて来た時より、遅い時間、いつも僕は外へ会いに行く。
優しいお兄さんのもとへ……。
暗い夜空の下で、ライトの当たったベンチに1人座っている彼。
彼は夜空を見上げていた。
お兄さんは見る空は、僕らの住む時計台の部屋とつながっている。
「にゃーん」
僕か彼の背広に、猫の毛をつける。決して怒られる事は無い。
でも、心がきゅっと悲しくなるのはなぜだろう。
凄く、悲しい、とっても嫌い。
お兄さんは時計を見て、「もうこんな時間か」と言うと、凄く悲しくなって、彼のひざに乗ったんだ。
「こら、くろ動けないよ」
僕だって悲しい! バイバイしたい!
でも、天女さんはやって来てしまった……。
「君は!」
「あ……貴方は……」
お兄さんと、天女さんは出会ってめでたしめでたし!
僕はにゃーんとしか泣けないから、そこから飛び出して、天女さんの隠れていた大きな木の後ろに隠れてる。
大きな木の後ろは安心する。
むにゃむにゃ、天女さんと僕は時計台に住んでいる。
それは僕の心の中の時計台。
でも、現実の世の中は騒がしく、木のざわめく音がする。
「おーい!、やっぱりここに居たよー」
「良かった~~」
僕は本当は知ってた。ごめんね。
おわり
僕は知らない もち雪 @mochiyuki5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます