エピローグ:アルカディアの空に

 あれから、数年の月日が流れた。

 辺境の小さな廃村だったアルカディアは、今や王国にも劣らないほどの豊かさを誇る、独立都市国家としてその名を知られていた。

 代表となったアッシュは、相変わらず穏やかな笑みを絶やさず、民から深く慕われている。彼の隣には、常に二人の美しい女性の姿があった。アルカディア騎士団の団長として凛々しく村を守る、銀髪のエルフ騎士エリナ。そして、天才的な発想で次々と人々の生活を豊かにする発明を生み出し続ける、狐耳の獣人研究者リリィ。

 三人の関係がどうなっているのか、村人たちは興味津々だったが、誰も野暮なことは聞かなかった。ただ、三人が一緒にいる時の、あの幸せそうな空気を見ているだけで、皆も幸せな気持ちになれたからだ。


 改良に改良を重ねた最新型の農業ゴーレムが、広大な畑を静かに耕している。学校からは、様々な種族の子供たちの元気な笑い声が響いてくる。

 空を見上げれば、リリィが長年の夢を叶えて完成させた、小型の飛空艇が、遊覧飛行を楽しんでいた。

 その光景を、アッシュは丘の上から眺めていた。


「綺麗だな……」

「ああ、全くだ」

「ボクたちの国だもんね!」


 彼の両隣には、エリナとリリィが寄り添っている。

 そこへ、一隻の美しい飛空艇が、アルカディアの船着き場へと降り立った。王国の紋章が描かれたその船から、金色の髪をなびかせた女性が降りてくる。

 定期的に国交の使者として訪れる、聖女アイリスだ。彼女はアッシュたちを見つけると、昔のように屈託のない笑顔で手を振った。


 追放されたあの日から始まった、数奇な運命。

 失ったものは大きかったが、得たものは、それ以上にかけがえのないものだった。

 アッシュは、澄み渡る青い空を見上げた。


「ここが、僕の本当の居場所だ」


 彼の傍らには、かけがえのない仲間たちの笑顔が、太陽のように輝いていた。

 彼の【概念再構築】が紡ぐ物語は、まだ始まったばかりだ。アルカディアの空の下、彼らの幸せな未来は、どこまでも続いていくだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった 藤宮かすみ @hujimiya_kasumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ