第十章:厄災の震源、王城地下の闇

 アッシュが王国を助けると決めたことで、事態は大きく動き出した。

 早速アルカディアの拠点で作戦会議が開かれる。参加者は、アッシュ、エリナ、リリィ、そしてアイリスの四人だ。


「『混沌の呪い』について、ボクが調べてみたよ」


 リリィが広げたのは、古代の文献の写しと、王都周辺の魔力分布図だった。


「この呪いの発生源は、一つ。おそらく、王城の地下深くに、何か強力な『混沌』の属性を持つものが封印されているはずだ。最近になって、何者かがその封印を意図的に弱めたんだと思う」


 リリィの分析は的確だった。古代の厄災が、なぜ今になって復活したのか。それは、自然現象ではなく、人為的なものだったのだ。


「王城の地下……。確かに、王家の者しか入れない、古い地下迷宮があると聞いたことがあります」


 アイリスが情報を提供する。


「よし、決まりだな。その地下迷宮とやらに行って、大元を叩く」


 エリナが聖剣の柄を握りしめ、力強く言った。


「僕が【概念再構築】で、呪いの源を浄化する。エリナは戦闘と護衛、リリィは解析とナビゲート、アイリスは僕たちの支援と回復をお願いできるかな?」


 アッシュの的確な指示に、三人は力強く頷いた。

 こうして、四人の精鋭チームが結成された。アッシュたちは、アイリスの案内で、秘密裏に王城へと向かった。


 王城の地下。王族の書庫の奥に隠された扉の先に、ひんやりとした空気が漂う地下迷宮への入り口があった。


「ここから先は、私も入ったことがありません。気をつけて……」


 アイリスの言葉に頷き、四人は迷宮へと足を踏み入れた。内部は濃密な『混沌』の気配に満ちており、強力な魔物たちが徘徊していた。

 しかし、今の四人の敵ではなかった。


「はあっ!」


 エリナが聖剣を振るい、魔物を一刀両断にする。聖剣から放たれる聖なる光は、『混沌』の魔物に対して絶大な効果を発揮した。


「アイリス、回復を!」

「はい! 【聖なる光(ホーリーライト)】!」


 エリナがわずかに負った傷を、アイリスが即座に癒す。彼女の回復魔法は、アッシュと出会い、自分の過ちを認めたことで、以前よりも純粋で強力な光を放つようになっていた。


「アッシュ、こっちだよ! 魔力の流れは、この先の広間が一番強い!」


 リリィが持つ魔力探知機が、迷宮の最奥を指し示している。

 四人は完璧な連携で魔物の群れを突破し、ついに迷宮の最深部にある広間へとたどり着いた。

 そこには、禍々しい紫色の光を放つ、巨大な黒い水晶が鎮座していた。これが『混沌の核』。全ての元凶だ。

 そして、その核の前には、一人の男が立っていた。


「……よく来たな、聖女アイリス。そして……追放したはずの、出来損ないか」


 そこにいたのは、王太子ギルバートの弟、第二王子であるアーサーだった。彼は、常に優秀な兄の影に隠れ、日陰者として扱われてきた男だ。


「アーサー様! あなたが、これを……!?」


 アイリスが驚愕の声を上げる。


「そうだ。私が外国と手を組み、この国の封印を弱めた。兄上が王位を継ぐなど、我慢ならんのでな。この国が混乱すれば、私にもチャンスが巡ってくると思ったのだが……。まさか、お前のようなイレギュラーが現れるとはな、アッシュ・ウォーカー」


 アーサーは歪んだ笑みを浮かべると、懐から黒いオーブを取り出した。


「だが、ここまでだ。この混沌の力で、お前たちごと、この国を更地にしてくれる!」


 彼がオーブを掲げると、背後の『混沌の核』が激しく脈動し、中から異形の巨大な魔物が這い出してきた。


「キシャアアアアア!」


 決戦の火蓋が、今、切られようとしていた。

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