霧ノ谷村調査報告書
紀伊辺ノ海
報告書
《霧ノ谷村 廃村調査報告書》
提出先:県教育委員会文化財課
作成者:歴史民俗学調査会
作成年月日:平成十三年八月二十四日
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一、調査の目的
本調査は、昭和四十年代にダム建設計画に伴い廃村となった霧ノ谷村について、同地に遺された建築物・民俗資料の保存状況を確認し、併せて口承伝承を記録することを目的とするものである。
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二、調査経緯
霧ノ谷村は江戸初期の文献に初出が見られるが、記録は断片的である。人口は常に数十名規模で推移し、周辺との通婚は極めて少なく、結果として同族内での婚姻関係が強固であったと推定される。
昭和三十五年以降、若年層の流出と共に過疎化が進行し、同四十二年のダム建設計画により全戸が移転。
しかし、公式に「水没した」とされる区域の一部が実際には湖面下に沈んでおらず、旧村落の痕跡が現在も確認できる。
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三、特記事項
1. 廃屋の内部に、差別的落書き、侮蔑的文言が複数確認された。
(例:「血は汚れている」「祟りを閉じ込めろ」等)
これらの記録は昭和期に書かれたものと見られるが、発生経緯は不明。
2. 複数の祠・石碑には、村落外では確認されない独自の文言が刻まれていた。
読解の結果「血」「祟」「贄(にえ)」の語が反復して現れており、血統を巡る宗教的禁忌が存在した可能性がある。
3. 住民移転に伴う行政記録の一部が欠落しており、数名の行方が不明のままである。
公式には「転居先不明」とされているが、現地では「人柱となった」との証言が散見された。
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四、証言抜粋(元住民・匿名)
「霧ノ谷のことは、もう思い出したくありません。私らは、あの血のことを信じさせられてきただけです。……けど、外から来た人は、知らんでしょ。あの祠の中、誰も覗いたらいけないんです」
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五、調査中の異常事例
調査第3日目夜間、調査員2名が「廃屋の奥に足音を聞いた」と証言。
現場を確認したところ、建物内部には侵入の痕跡がなく、また動物の足跡も確認されなかった。
さらに、同日撮影されたビデオ映像の一部に、調査員以外の人影が映り込んでいた。
映像解析の結果、「光の反射」と判断されたが、影の形状が調査員のいずれとも一致しないことが付記される。
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六、補記
本調査報告書は教育委員会の内部資料として作成されたものであり、外部公開は推奨されない。
調査対象地域は立入禁止区域に指定されているため、学術目的以外での現地調査は固く禁じられる。
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(以上、抜粋)
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霧ノ谷村調査報告書 紀伊辺ノ海 @sisiro
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