三、七不思議

 うちの小学校には新校舎と、荷物置きの旧校舎がある。教室は全て新校舎だし、旧校舎にはほとんど入れない。運動会の準備の時に、大量の三角コーンが必要な時だけ委員会の人が入れる。問題はその旧校舎なんだ。このことが噂になったのは学童の子が原因だった。彼ら以外の生徒が帰って、学童も閉まる時間に、ある児童がトイレへ急いだ。その時、旧校舎が見える窓に目がとまった、旧校舎から明かりが見えたらしい。影も人の形にみえたのでオバケだと思ったらしい。もうあそこには電気は通っていないので用がある際には懐中電灯を持つのだ。僕も行ったことがあるが、本格的なお化け屋敷にさほど変わりないので結構怖かった。もしかしたら児童の中に同じことを思った子がいて、旧校舎とお化け屋敷を同じ恐怖として捉えたのかもしれない。人間は仕掛けが分からないものには恐怖をいだく生き物だ。その子はきっと訪れたお化け屋敷のテーマが廃校舎か何かで、自分の学校の旧の方に似ていることで混乱、その二つを重ねてしまったのかもしれない。とても良い推理ができた。転校事件の悔いを晴らせた気がする。今後こそは解決できそうだ!そう思ったが、油断はできないので学童の子に昼休みにインタビューをすることにした。僕が質問をして翔はメモをとる、いい連携プレーで情報が増えていく。


分かったこと(メモ)はこれだ。

・影が動いていた

・多分男の人のおばけ

・先生のおばけの可能性大

・なにかを探しているおばけ


僕が推理した心理的な要素はあまり無さそうだ。また自分に失望する。代わりに分かったことは、多分教師が物を探しに来ただけだということ。七不思議なんて結局大体そんなものなのだろう。放課後新たに手に入れた情報がある。目撃のすぐあとに旧校舎の扉を学童の先生含めみんなで確認しに行ったが、扉は全てしまっていたしすごく厳重にロックがかかっていたらしい。棒も見に行ったが、たしかに時間がかかりそうだった。鎖に巻かれた取っ手部分まで解くだけでも三分はかかるだろう。とりあえず捜索のために学校の敷地内を一周しようと翔が提案して、他に協力してくれることになった二人も連れて四人で歩き始めた。校舎のことを新と旧と呼んでいるのだが、新の方も一応通ることにし、新側にある校庭の隅っこのウサギ小屋も確認しようということになった。木に囲われており、なかなか強烈な異臭がするので児童の嫌われスポットになっている。何を探すのかも分からない僕たちはとにかく暑くて疲れ果てた。五時のチャイムがなって、僕と翔以外の二人は焦って帰宅した。僕も翔も年中門限は五時半で、家から学校まですぐだったので残って捜索を続けた。がたっと音がした気がして一瞬翔の方を向いて静止した。翔も同じだった。

「オレなんか踏んだかも、地面がガタって、」

ウサギ小屋の奥の地面だった。砂を払ってみると、地下に行けそうな錆び付いた入口があった。僕の直感だが、これは旧の方につながっている気がする。直感というかそっちの方が面白いというだけかもしれない。

「多分だけど僕たちここを通れば幽霊の正体を突き止められる気がする。」僕はいつものように翔に手を出した。しかし翔は手を引いた。

「通っていいのかな。今週ママに叱られすぎてゲーム禁止になりそうなんだよぉ。やめない?」ゲームができなくなることを心配している純粋な少年の腕を掴み、引っ張って連れて行った。彼も反抗はしないので本当は気になっているのだろう。コンクリートに埋まった細くて頼りない様子の梯子にギュッと掴まってゆっくりと降りていった。長い長い洞窟を通ることになりそうなのでランドセルはここに置いていくことにした。ライトは持っていなかったので奥に見える薄い明かりまでゆっくりと歩く。翔はギュッと僕の腕にしがみついて歩く。地下はさっきよりも、だいぶ涼しいので助かるが、ホラー味も増すことがわかった。やっとさっきの光までつくと、またさっきと同じ梯子を登って、少しずらされている入口をどかす。これのおかげで僕たちは道が見えたので助かったが、明らかに人が動かした感じだったのでなんだか緊張した。幽霊の出る部屋は事務室だったらしい。中に入るとダンボールの山が今にも崩れそうな状態で待ち構えていた。一つだけホコリの被っていない綺麗なダンボールが半開きになっておいてあった。そこには紙がたくさん入っていて好奇心で覗いて見た。卒業アルバムの、大量の写真や手紙があった。昭和一桁のもので古かった。突然後ろからガチャガチャきこえる。隠れる隙はなく、事務室のドアが開かれた。山川先生だった。

「何しているんだい!そもそも二人ともどうやって?」

どうやって、何なのかを聞かずとも僕らは素直に話した。(正式には僕が全て話したが。)親には言わないでと土下座で頼み、逆に先生は何をしていたのかと超絶生意気な児童として質問をした。ここは先生でもだれでも用がない人は入っては行けないはずだからだ。彼はとても温厚で人柄がいい先生たったので少々困った感じを出しながらこう言った。

「まぁ君たちだけに秘密を言わせるなんてズルいよな。私も言おう。簡潔に言うとだな…うん~と、先生の、まぁ友人の思い出の品を、学校に預けてもらおうと思ってね。彼女はこの学校で僕と同級生でね。同じクラスだったしよく話していたんだけど、急にいなくなったんだ。失踪っちゃあ失踪かなぁ。今もどこか分からなくて、いつか会った時に全部渡そうと思って何もかも自分の家で保管をしていたんだけど、引っ越すものでねえ。妻にも流石に新しい家に持って行きたくないって言われてしょうがなくね…」

「先生って前に地下の道使いましたよね。僕たちもそこを通って、最近人が通った形跡があったので。それって何故ですか?いま鍵ありますよね。」

「あぁ、あれ?バレてたか…アハハ…。実は鍵は許可を貰って借りていたんだけど、どこかに無くしちゃって、仕方なくそこを使ったんだよ…。あそこも何かしら鍵をつけないとこうやってみんなが入っちゃうなぁ。困った困った…。そして鍵はこの通り、車の中に落としてたからもう見つかったんだがね。」

山川先生がそういうと場の緊張感はなくなり、先生も追加で持ってきていた失踪した友人の荷物をやっと床に置いて、君たちはもう帰りなさいと指示してきた。僕たちは先生にもう一度だけ親に報告しないかを聞き、安心して走って帰った。

「全部ふつーだったね。」

「そうだね。失踪する子が多いのが地味に怖かったかも。山川先生の話ってほんとだよね?」

「オレはしらないけど、まあとにかくオレさ、圭介と冒険できてさいこーだった!ありがとー」

心がなんだかほっとする。そして同時にあの社会人の日の、翔の言葉が思い出される…疑問と喜びとが混ざりあって妙な感じがする。翔の中で一体どんなことがあって僕と離れなければ行けなくなったのだろう。この翔が…

 ──あれ、ここって…僕のマンションの玄関?翔は、さっき一緒に帰ってたはず…。これって夢?今何時だ…。スマートフォンを開くと10:04の文字がみえる。十時か、よかった。ん、七月十四…日?あの酔っ払った日は七月七日だったはずだ。仕事を1週間丸々すっ飛ばしたということだろうか、困惑しながらもすぐ上司に電話した。

「どうしたんだね加藤くん今日は来てないけど。十時は少し連絡が遅いぞぉ。」

「あ、ほんとだ…申し訳ございません!しかも、僕先週一週間も無断で休んでしまって本当に申し訳なかったです。」

「何を言っているんだい?君はちゃんと来ていたじゃないか、あれはたしかに加藤圭介だったぞ。なんか疲れてるんじゃないか?今日は一日休んでおきなさい。」

「はぁ…。では失礼します。ご迷惑おかけしますがよろしくお願いいたします。」

これって、どういうことだろう。タイムなんちゃらとかそういうやつなのか?え、翔との関係は変わっていないよね、まさか。とりあえず立ち上がろう。ピンポンピンポン──はーい、僕なんか頼んだっけな。開けるとそこには──翔、どうした?沈黙が続く──────

「圭介、言わなきゃ行けないことがある。ずっと言えなかったんだけど、おれ、病気。圭介にオレが万が一死んだ時迷惑かかるし悲しませるから親友をやめて一人で死のうかと。」

「ぁ…そんな、すぐな感じ?」もっと聞きたいことはあったし意味が分からない状態すぎて混乱しすぎていた。

「余命とかはないよ。ただ怖くて。」

「なんかごめん。あの、僕たち親友に戻れる?」

「うん。っていうかオレが悪いごめん」

素っ気ない僕らだが、握手をしたこの手はたしかに熱かった。君が死んでも僕が君に…きっと…。

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