第36話
「いや、本当だ。オレはあなたのこと、オレの番いを狙ってる腹黒王子だと思ってたからさ。あなた、王様向いてるよマジで。このぼんくらの祝福の子はオレがいっとう幸せにしてやるから、こっちは気にせず国政やってくれ。あなたなら祝福とか龍神の加護なんてなくても名君になれそうじゃないの。αの王と結婚させてたのは、とりあえず王家が一番金持ってて、祝福の子を物理的に幸せにできるからってのもあるんじゃないかとオレは思っているんだがね」
「誰が腹黒王子だよ地黒王子。あ、いや、元王子か。でもいいのか、きみはαだろう? αの元王族が他国の王子に仕えるなんてプライドが許さないんじゃないのか。僕なら耐えられないな」
「全然? 言ったろ、オレはこいつが番いになってくれるなら、あとはどうでもいいの。オレのプライドなんて戦火で焼かれちまってなんも残っとらんよ。プライドじゃメシは食えねえ。そういう意味ではオレってなんも王様に向いてなかったなあ。器が違うわ。この国金もあるし、オレの待遇悪くなることもなさそうだし、あなたの家来になりますよ、ユア・ハイネス」
初めてシャイアがアデレードにそう呼びかけた。
アデレードは少し考えた後ですっと右手を差し出した。
「正直まだ釈然としない気分ではあるけど、αで元王族の腹心がいる王子なんて世界中探しても僕くらいのものだろう。きみのような頭のいいαを見過ごす奴はバカだ。今後は僕を助けて欲しい。きみを重用することで陰口を叩く者がいたら教えてくれ。きみはバカを見分けるふるいにもなるだろう。それから、王家としても祝福の子を手放したきりあとは存じません、というわけにはいかないんだ。煩わしいのだろうとは思うが、時折うちの主催のパーティーに招待させていただく。来てくれるね?」
二人がなぜか目の前で握手しているのを、ブルームはぼんやりと見つめていた。
「イエス、ユア・ハイネス。だがオレはそこの阿呆とは違う。あなたがご乱心したら、すぐに寝首を掻いて王位簒奪しちまうぜ」
「そんなこと、思ってないくせに。きみは王になる気なんて、これっぽっちもないだろ。僕はそうそう乱心するような人間じゃないつもりだが、間違えていたら横っ面でも殴ってくれて構わないよ。今日、きみがそうしたようにね。この年齢であってもαの王子に文句が言える人間なんかこの国にはほとんどいない。今まで爺やだけだったんだよ、僕に意見してくれるのは」
それからアデレードはブルームにそのロイヤルブルーの瞳を向けて言った。
「ブルームさん、あなたはとても綺麗な人だ。僕、本当に今夜を楽しみにしていたんだけどな。残酷な美人だなあと思うけど、僕の隣にいてもただただ純白なあなたが、なぜか彼の隣では遊色に輝いているというのだから、まあ、仕方がない。どんなに大きく美しい真珠も永遠に水底で眠っているならそんなものはただの炭酸カルシウムの塊だ。でもこれだけは誤解して欲しくない。僕にあなたを輝かせる能力がないわけでは、ないはずだ。自分の落ち度ではなかったと、少なくとも僕は信じている。それに……」
とうとうあなたが一度も僕に本音で接してくださらなかったことは、少々恨みに思っています。
あくまでも優雅に上品にアデレードは元婚約者をなじった。
「……返す言葉もございません、ユア・ハイネス」
慌てて頭を下げたブルームに「だから、そういうところだ」と殿下は素っ気なく言った。
今まで自分には見せなかった顔をしているのは殿下も同じなのに、と思いながら、ブルームはそのどこか兄に似ている王子に黙って近衛兵式の敬礼を捧げた。
湖じゅうがキラキラと輝くしずくに満ちて、どこもかしこもオーロラ色に揺らめいていた。
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