そんなに甘くはないようで(完結済)
ユズ
Charlotte aux poires
Chapter 0:The Empty Plate
「集中していたら思った以上に遅くなっちゃったな…」
そんなことを呟きながら工房の戸締りをチェックしてドアに鍵を掛けた。
再度ドアノブを廻してちゃんと鍵が掛かっていることを確認すると、空気の冷たさにブルッと震えた体を思わず自分自身でギュッと抱きしめた。
もうすぐ12月になる。デニムに薄手の長袖Tシャツというどう見てもこの時期の夜に外へ出る格好では無いため、寒さに震えるのもしょうがない。
辺りはすっかり暗くなっていて空を見上げるが、ビルに囲まれたこの場所からはぽっかりと四角く切り取った白茶けた黒がのっぺりと見えるだけで、星なんて探しても見つからない。
ダメだ、寒い…早く家に入ろう…。そう決めて足早に隣の玄関へ向かった。
「ただいまー」
ガチャっとドアを開けて中に入りリビングを覗くが、シーンと静まり返った部屋に自分の声だけが響き、いつも返ってくる声が聞こえない。
明かりは点いていたから先に帰ってきてるはずなんだけど…
「あっ、おかえり〜。まだ帰ってきてないみたいだったから先にお風呂入っちゃった」
そう言いながら腰にタオル一枚巻いて、髪をわしゃわしゃと拭きながら現れた人物を見て思わず固まってしまった。
身長191センチ、体脂肪率11%だったか?そんな事を言っていた気はするが…。
とにかく、同性から見ても惚れ惚れするような体型で、目鼻立ちが整いすぎて人によっては冷たいと受け取られる時もあるらしい。でも、明るい茶髪にゆるっとウェーブのかかった癖毛は柔らかい印象を与え、基本、いつも笑顔なので…結局は…うん、とっても人懐っこい美人さん。
そして…少し前からは僕の同居人でもある。
「うん?どうした?」
髪を拭き終わったタオルを首にかけてこっちにやってきたと思ったらポンポンと頭を軽く叩かれた。
「そんな格好だと寒いだろ。先にお風呂入ってきたら?」
それだけ言うと、自分は服を着るためかリビングを出て行った。
そんな背中をぼーっと眺めていたが、視界の端になんか丸まったものが落ちてる。
「あっ…。色んなところに靴下脱ぎ捨てるのやめてって言ったよね…」
仕方なくそれを拾い上げ、脱衣所にある洗濯機へ放り込むと遠くから声が聞こえた。
「ごめん!着替えたらご飯作るからそれで機嫌直して!」
大きなため息が口から漏れるが、口角が上がっているのが分かった。
些細なやり取りさえも嬉しくてこんな時間がずっと続けばいいと思う反面、これがどう言う気持ちなのか分からずにいる。
本当に?
気づかないふりをしてるだけ…じゃないの?
そろそろ限界なんじゃないの…?
この心地いい場所と時間を失うのは辛いけど…そろそろ覚悟を決めないと。
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