第15話 「真相への糸口」

 夕食の食卓に、湯気の立つ煮物と味噌汁が並んでいた。母は「今日は野菜が安かったのよ」と笑顔で話しかけてきたが、俺の耳は別の音に捕らえられていた。

テレビから緊急速報のチャイムが流れたのだ。


『送電網への不正アクセスが確認され、一部地域でシステム障害が発生。通信の途絶や短時間の停電が報告されています。被害は限定的で、大規模停電には至っていません――』


箸を持つ手が止まった。胸の奥で心臓がひときわ強く脈打つ。

(……これ、教団がやったのか? もし、やったんだとしても……資金がない中で無理に決行したから、こんな中途半端な結果になったんじゃ……?)

思考が勝手に走り出す。あの夜、斎藤の部屋で見つけた走り書き。「資金 → 奪取、阻止」「電力止まれば街全体に影響」。その文字列が視界の裏側に浮かび上がり、目の前のニュースと紐づけてしまう。


 斎藤は――あの金を動かして、この計画を止めようとしていたのか。

そして、資金が俺の口座に眠ったままだから、教団は十分な準備ができず、不完全なまま動いたのか。

だが、すべては憶測に過ぎない。ニュースの画面を見ても、教団の名前が出るわけではないし、断定できる証拠なんて何もない。

(俺は何も分かっていない。ただ一つ、この金が異常な重みを持っているってことだけは……間違いない)


「物騒ねえ」


母がぼそりと呟き、茶碗を重ねて台所に立ち上がった。テレビの音声は軽快なニュース原稿に切り替わり、やがて別の話題に移る。

日常の空気は、何事もなかったかのように流れていく。

だが俺の頭は止まらなかった。

田中は死んだ。斎藤も死んだ。二人はきっと、教団の計画を阻止するために動いていた。

その資金は、なぜか俺の口座に流れ込んだ。

そして教団は資金を失った状態で計画を動かし、結局は小規模の混乱にしかならなかった。

(もし、あの金が最初から教団に渡っていたら……今ごろ、この街全体が真っ暗になっていたかもしれない)

恐怖が喉を塞ぐ。俺の口座に眠る金――それは街を救ったのかもしれないし、逆にまだ誰かを破滅に導く火種なのかもしれない。

布団に潜り込んでも、考えは止まらなかった。

(この金が残っている限り、俺は計画の残骸を握っている。斎藤が命懸けで奪った資金を……俺は、どうすればいいんだ)

暗闇の中で目を閉じても、まぶたの裏には銀行アプリの数字と、斎藤の震えるような走り書きが交互に浮かび続けた。

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