プリエスティラ新農場物語
@himatarou-
1章 死にゲーにようこそ
第1話死にゲーの主人公に俺はなる
家庭用ゲームとして発売された「プリエスティラ新農場物語」という作品は農業ゲームである。
しかし、賛否両論巻き起こしたゲームでもある。
どこが批判を生んだかと問われれば理由は多い。
制作陣による特定のルートのてこ入れ。
農場ゲームなのに偶に血なまぐさい展開。
ゲーム難易度がそもそも高いという点。
一部クエストを放置すれば前置き無くゲームオーバーとなる点。
他にもいろいろ多い。
このように議論巻き起こす本作だが、反面自由度も高く、そういった点からRTA走者ややりこみ派も多い。
ここにいたのは、本作をプレイし、本作を愛した人物。
「よし、現在14時。本日の野菜の収穫は完了。あとは雑貨屋が閉まる前にレインさんに挨拶して好感度を上げて…」
ここに鍬を持ち、畑を睨みつけながら独り言をつぶやく少年がいる。
彼の名前はルナリオ。本作のゲームの男主人公にして、その中身はちょっぴりゲームが好きな日本人の大学生だった。
「この世界から帰るには、お金をためて、ゲームシナリオをクリアする必要があるからなあ。今日も頑張ろう」
事の始まりの説明のため、場面をゲーム開始時点に巻き戻そう
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『跡継ぎ争いから逃れ、あなたがたどり着いたのは街外れの大きな農場。そこであなたは一匹のモンスターと出会う』
それは鮮やかなレンガを使用した家ではあった。使用されている材料からかつてはそれなりに洒落ていたであろうことは容易に想像できる。しかし、屋根は崩れ壁は朽ち、木材を使用した家具に至っては腐っており虫が湧いていた。
綺麗好きのものにとっては非常に気になる場所に少年は立っていた。
「あれ…?俺、さっきまで大学のシラバス読んでいたのに…?」
短い亜麻色の髪を持ち、仕立ての良い服を着ているその少年は、その外見に似つかわしくないボロ小屋に立っていた。エメラルドの色をしたその双眸は、部屋の内装をせわしなく確認している。
レンガ、石、湿った床。
現代日本ではなかなか見かけない材料を用いられているそのインテリアに彼は首をかしげる。
「ここはどこ?俺はどうしてここに…?」
困惑しながら周囲を見渡す中、足元で小さな光が反射していることに気が付いた。
鏡だ。
この家は全く掃除されておらず、下にはいろいろなものが散乱しており、足元には鏡の破片が落ちている。少年は怪我をしないように気を付けながらそれを慎重に拾い上げ、自分の姿を確認する。
「茶髪?緑の目?俺は髪を染めたことないし、カラコンも使ってないのに…。いや待て、この顔をどこかでみたことがある」
記憶を急いで手繰り寄せようとするが、数秒とかからずに思い出がヒットする。
「プリエスティラ新農場物語の主人公と一緒の顔だ」
プリエスティラ新農場物語。もちろん俺は知っている。大学受験が控えている中、どうしてもその魅力的な紹介CMに我慢が出来ず、ほんの少しやれば満足するからという思いを抱いたはいいが、結局こらえきれず長々とやってしまったゲームだ。
結婚あり、戦闘あり、魔法あり。それが楽しそうなBGMとともにプレイ動画が放送されていたのだ。惹かれるのも当然なのである。
なお受験が控えた中、少しだけだから、沢山はやってはいけないと思いつつプレイした結果どうなったか。本命は落ち、滑り止めに進学することになった。極めて苦い思い出でもある。
特殊メイクを疑い、自分の頬をつまんではこね、その触感から本物そのものであると確信する。つまんだ箇所は痛い。やはりこれは
「本物のルナリオだ」
ルナリオ。男女選択主人公の中から男性を選択すると、さわやかな亜麻色の髪に、エメラルドの眼を持つこの男性でプレイすることとなる。
「俺はルナリオになってしまったのか?これ、ゲームの中の主人公に憑依してしまったということでいいのか?」
主人公に憑依してしまったという事実に俺は大変驚いた。大好きなゲームだ。本当だったらここで、主人公になれたことに喜ぶべきだろう。しかし。
俺は極めて深い絶望を味わっていた。
なぜなら
「まさか
主人公に極めて残酷な仕打ちをする類のゲームだったのだ
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