第15話 企んだ付きまとい

 放課後小秋は学校を後にして歩いていく。その後ろに僕はついて行った。

 いや、別に怪しいもんじゃない。僕はボディガードとして彼女を守らないといけない立場なのだ。

 マネージャーが不在の中、この帰り道に襲われる可能性だってあるはずだ。

 しかし、敢えて近づくわけではない。誰かが付けて来たら、その人物を取り押さえて、小秋を守るのだ。

 その時に、今まで素直ではなかった彼女が、僕に対して告白をしてくるという作戦だ。

 僕は緊張がずっと続いていた。いけないことだとは分かっている。しかし、それを正義というものにすり替えることで、行動に移したかった。

 小秋の全てが知りたかった。僕にとってはかけがえのない存在になっていた。

 あの時――次郎が小秋のことを口にするまで、僕は小秋の存在を平たくしか知らなかった。

 しかし、今は違う。僕達には身体を抱き合った仲である。もしこのことに気づかれたとしたとしても、小秋は受け入れてくれる。

 小秋は学校から一番近い電車に乗った。まだ、同じ制服を着た上級生だろう。僕の知らない人物らが車両内にいた。

 僕はというと、制服ではなく私服だ。実は、僕は先回りをして自分の家に帰宅をして急いで私服に着替え、また学校付近に小秋が出てくるのを待ち伏せしたのだ。

 通勤が自転車な僕は、その所要時間は三十分程度だった。後は小秋が早く学校から帰宅しないかは賭けだった。

 今日は『OPQ』の活動はない。そこも把握していた僕は、じっくり彼女がどんな道草を食っているのかも見られるという、多幸感に包まれていた。

 彼女は車両の座席に座り、ワイヤレスイヤホンを付けたままスマートフォンの音楽を聴いている。僕は彼女から一台離れた椅子に座り、自分のスマートフォンをいじっていては何度も小秋の方を見た。彼女は気づいている様子はなかった。

 電車は二駅目に着くと、彼女は電車から降りた。この駅が彼女の最寄り駅だと前に金村から聞いたことがあったので、僕は終止ニヤニヤしていた。


 小秋は駅から離れて、住宅地が多い場所まで歩いていた。それを僕はまるで探偵のように尾行しながら、彼女の後ろ姿だけを見ている。

 とはいえ、歩いている人たちは何人かいて、たまに僕を不審な目で見てくる大人もいた。しかし、僕はそこに気づいているが諦めることは出来なかった。そう、全ては彼女のボディガードとして勤めているのだ。

 途中、彼女は一度後ろを振り返った。ヤバい! 見つかってしまう。

 僕は瞬時に彼女の視界から消えるように、家の角に背中をくっつけて、荒い呼吸をした。完全にバレてしまったら、僕と小秋の関係がなくなってしまう。

 僕は三十秒ほど待機していた。彼女を見たいのだが、怖くて動けないでいた。

 ようやく左目だけを視界に現した時に、小秋はまた歩いていた。

 ――良かった。こちらに来るわけでもなく、走ってどこかに行くわけでもない。僕にとっては寧ろ一番いい方法を取ってくれる。

 僕は荒い呼吸がしばらく続いていた。何をしているのかさえ思ってしまっていた。思わずかぶりを振る。

 俺は間違ってないんだ。絶対に……。

 そう思いながら、彼女の後を付けていくと、やがて彼女は十階建てだろうか。ファミリー向けのマンションへ近づいていく。

 僕は急いで視界に隠れ、彼女がそのマンションへ入っていくか確認をした。

 小秋は一度周りを見たが、不審者がいないことを思ったのか、オートロックの暗証番号を押して、開いた自動ドアに入っていく。

 僕は出来れば、小秋がこのマンションの何号室に行くのか知りたかったが、隠れる場所がなく、どうやらここまでが限界だった。

 三分くらい待つと、ようやく僕はこのマンションのオートロックのところまで行き、手掛かりが無いと、今度は、裏にある集合ポストを確認した。

 どうやら、このマンションは十一階建てであり、号室は、一階は部屋を設けていないがそれぞれの階数に六号室までだということが分かった。

 しかし、ファミリーマンションとはいえ、プライバシーにかかわるものだからか、ポストには表札が上がっているところと、上がっていないところがあった。

 隈埜という名前はなかった。彼女がアイドル活動を行っているから表札を取ったのかも知れない。

 僕はその集合ポストの蓋を開けて彼女がどこに住んでいるのか、確認したかったのだが、ふと顔を上げて天井を見ると、カメラが設置されてあったので、ここまででしか分からなかった。

 少しマンションから離れると、一気に疲れが出た。ここまで緊張感と不安が続いていたのだ。無理もない。

 だが、僕はそれ以上にこのマンションに住んでいるという喜びに満ち溢れていた。僕はポケットからスマートフォンを取り出して、このマンションを撮った。

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