第7話 微妙なクラスメイト……
勉強会を仕切っていたのは、聡明な遠藤君とクラスの中で上位五位までは入るという、鹿島君の二人だった。
僕は、勉強に関しては得意科目と不得意科目がある。国語や社会は得意なのだが、理数系は全くついていけず、苦戦していた。
しかし彼らが親身になって教えてくれたことで、理数系が大分理解できた。
そんな勉強会なのだが、ものの二時間もすれば、各自集中力が切れてきて、話は勉強とは違う方向に行った。
「この時期に勉強しないと、三年になれば今度大学のことも考えないといけないもんね」
と、西村さんは湯呑に入った緑茶を飲んだ後に呟くと、向かいに座っていた次郎が笑った。
「何笑ってんの?」
「だってさ、お前ずっとその話してんじゃん。もっと今を楽しもうぜ。折角勉強も出来てんだしさ」
「行きたい大学って決まってるの?」
と、遠藤君が聞く。
「いや、まだ具体的に考えてはないけど。でもFランだったら結局就職にも響くだろうし、予備校を受けるお金もないし。それだったら今この時期にきっちと勉強しないと、いい大学にも入れないし……」
「別にいいんじゃねえ」と、次郎。「俺なんてさ、去年も勉強会参加したけどさ、普通に試験赤点取りまくりで、追試ばっかりだぜ」
「それは自慢じゃないな」
と、遠藤君がツッコミを入れる。
「まあ、次郎の言うとおり、先先のことを考えても取り越し苦労ってこともあるし、あんまり考えない方がいいけど。でも、将来のこと考えてしまう気持ちも分かるよ」
と、鹿島君は何気言うと、西村さんは笑った。しかし、その笑顔は胸を撫でおろしたというよりもどこか顔が赤くなったような照れた笑みであった。
僕は次郎に対して、西村さんのことを「彼女?」と小声で投げかけてみた。すると、次郎もそれを聞いていた西村さんも慌てて首を横に振った。
「ち、違うぜ。俺たちは何回も言ったけど、ただの幼馴染なんだ。この高校もたまたま同じ学校に入っただけだし。……それに西村は好きな人がいるもんな」
次郎は西村さんに言うと、彼女はまた顔が赤くなって言った。
「な、何で、ここで言うの。バカじゃないの」
ただでさえ小柄な西村さんが、肩身が狭くて余計に小さく見える。僕は何となく可哀想になってきて、話を変えようと思った時に、丁度僕の向かいに座っている西村さんの友達の高野さんを見た。
彼女も勉強はストップをしているのだが、内気な性格からか、みんなを見ては何も話せないでいるようだ。
何となくそんな気持ちは分かる。僕も今は、次郎に対しては話しかけられるが、彼がいなければこの場に喋りかけることはなかったであろう。それが勉強会そのものが退屈に感じ、面白くなかったという感想を脳裏に刻んでいた可能性だってある。
今、まさに彼女は面白くないと心の中で思っているに違いない。
僕は勇気を出して高野さんに話をした。
「高野さんは、こういった勉強会は初めて?」
僕が聞くと、彼女は驚いたように声を上げた。
「え、あ、初めて……です」
少しずつ声が小さくなるところが、内気な性格というのが証明できる。僕は何気なくを装い話を続けた。
「でも、高野さんは結構クラスでも成績が良いよね。特に国語なんて先生に当てられてもスラスラ答えるところが」
「あ、まあ、普通だよ」
「普通じゃないよ。俺なんて、全く授業についていけなくて呼ばれた時、一気に頭の中が真っ白になっちゃうから、凄いなって、頭いいんだと思って感心するよ」
「……ありがとう」
僕は何となく初めて感謝されたことが嬉しかった。それに彼女も少しずつ緊張がほどけてきているようだ。
「そうだよね。高野さんさっきから何も質問しなくても、ついていってるよね」
と、彼女の隣にいた鹿島君が僕と彼女との会話を聞き、話に入ってくれた。
それから僕は高野さんと鹿島君の三人で雑談をした。鹿島君が高野さんに話をする度に、彼女が嬉しそうに返すところが僕は嬉しく感じた。
「そういえば、金村は実家が住職だから、大学も仏教系の大学に進学するの?」
と、西村さんは金村君の方を見た。
「まあ、俺なんて、もう将来が決まってるし、でも俺はアイドルオタクを止めないぜ」
そう言いながら、金村君は親指を立てる。丸坊主で背も小さく、いつもみんなからいじられキャラの彼である。
「アイドルオタクだったら、隈埜さんのアイドルの名前何ていったんだっけ?」
「『OPQ』」
彼は即答で答えた。
「ああ、それそれ。その『OPQ』のライブも行ってるの?」
「ああ、モチのロンよ。いっとくけど、俺が最初に小秋ちゃんのファンだからな」
と、自慢する金村君。この言葉を何度聞かされたことか。
すると、次郎はため息交じりに言った。
「……お前は本当にそればっかりだな。俺達は誰が小秋ちゃんの彼氏になれるかライバルだからな」
次郎は女子らがいる前でキッパリと宣言する。
「直孝もだろう?」と、次郎。
「まあ、俺は、今は女子に興味が無いが、付き合うんだったら彼女がいいな」
そう冷静な発言を醸しながら、顔つきはどこかにやけている。
「えー、遠藤君も隈埜さんを狙ってたの? じゃあ、長永君は?」
西村さんは僕に目を向けた。僕に話しかけてくれたのは初めてだった。どうやら嫌われていないらしい。
僕は次郎を一瞥した。彼は興味津々な顔で僕を見てくる。
「……まあ、俺も付き合うんだったら隈埜さんがいいかな」
苦笑いを見せると、西村さんは目を丸くした。
「へえ、意外。長永君真面目だから隈埜さんを選ばないかなと思った」
「何だよ。真面目な人間が小秋ちゃんを選んじゃいけねえのかよ」
次郎は少しムキになって西村さんに食って掛かる。
「いやあ、そうじゃないけど……。でも、確かに隈埜さんはあたしたちにも優しくしてくれるし、いい人なのは間違いないけど……」
と、西村さんは鹿島君の向こうにいる、高野さんと目が合った。アイコンタクトをしているようだ。彼女も何度も頷く。
「でもさ、隈埜さんってさ、ちょっと天狗になってるんじゃないか。女子の中でも彼女がリーダーみたいになってるような気がするんだよな」
と、鹿島君が言うと、次郎は「何だよ、小秋ちゃんに嫌味を言うのか?」
「いや、そうじゃないけど。本音はどうなのかなって……」
鹿島君が言うと、西村さんと高野さんは少し沈黙があった。すると、高野さんの口が開いた。
「本音を言うと、本当に女子の憧れの人って感じ。だって可愛いし、奇麗だし。男子たちが好きになるのも分からないでもないもん」
と、少し間隔を空けて「ね?」と西村さんに聞く。彼女は何度も頷いた。
「そうだよ。変なこと言わないでよ」
何だか場の空気が変になってきたようだ。特にこの静まり返った広いリビングでは、どこか恐怖も感じさせる。
すると、閃いたように、金村君が軽く咳ばらいをして言った。
「ちょっと変な感じになっちゃったな。勉強でも再開する?」
「それは、たんま」
と、次郎は両手を尻の後ろに付き、反り身になった。
「あたしも……。急に集中力がなくなっちゃった」
次郎と同じようなポーズをとる西村さん。何だか本当にカップルのようだ。
「俺も今日はもういいかな」
遠藤君も持っていたボールペンを、サイコロを振るように投げ出した。
「それだったら、ここで怪談話をしようか?」
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