これはお姉ちゃんポイント高いかな?


「おはよう弟君、朝だよ起きて~」


 俺が朝一番に聞く声は母親の怒鳴り声から、美人のお姉さんの囁き声に変わった。朝から元気いっぱいになれるから最高だ。だが俺に姉は居ないのでこの人の弟ではない。自称姉の若干ヤバい人だ。え? お前のスキルの所為じゃないかって? そ、それは言わないお約束じゃないか……。


「ふぁ~、おはよう斎京さん」

「もうお姉ちゃんって呼んでっていつも言ってるでしょ!」

「俺に姉はいません~」

「むぅ、弟君は反抗期なのかな……どう思う家政婦さん」

「そりゃ高校1年生なんて反抗期真っ只中でしょうよ~。二郎ちゃんも昔はそりゃ――」

「貴方の昔話は弟君の教育に悪そうだから止めて?」

「アッハイ」


 この家で一番立場が弱く家政婦呼ばわりされてる二郎ちゃんは、斎京さんに一睨みされてそそくさと部屋から出て行った。そう俺と二郎ちゃんは同室なのだ。一応護衛だから同室で寝た方が良いだろうって言う事でこうなった。決して1人で寝ていると斎京さんが添い寝しようとしてくるからではない。『弟君はお姉ちゃんと一緒に寝るべきだよ?』とか言われた気がするが二郎ちゃんガードで乗り切った。二郎ちゃんはぼろ雑巾と化したが必要な犠牲だった。

 あ、因みに二郎ちゃんは俺とは違って朝が弱く無いので斎京さんが起こしに来る前に起きているが、斎京さんが来て交代するまでは部屋に居てくれる。S級冒険者の家に乗り込んでくる馬鹿なんて居ないだろうし、そこまでする必要無いと思うんだけど二郎ちゃんも仕事だからと譲らない。


 洗面所で顔を洗ってからダイニングに行くとパンが焼けた美味しそうな匂いが漂ってきた。朝ごはんは斎京さんが用意してくれている。実は初日はパンすら焦がすレベルだった。二郎ちゃんが代わりに卒なくこなしてくれ事なきを得た。二郎ちゃんはちゃらいくせに家事全般何でもこなせる。そんな二郎ちゃんを見て斎京さんは『弟君が取られちゃう!?』とネットで色々と調べて今では朝食にトースト・オムレツ・サラダ・スープなんかを用意してくれるレベルになった。


「今日も美味しそう~。頂きます!」

「ふふっ、一杯食べて大きくなるんだよ?」

「迅君は朝だからって変な場所を大きくしちゃだめだ――ぐふっ!?」

「汚物は黙ってろ」

「ずみまぜん……」


 二郎ちゃんも下ネタ口にしたら斎京さんに処されるんだから、いい加減学習して止めれば良いのに。本人に言ったら『男には曲げてはならないものがあるんだよ、迅君もその内分かるようになるさ』と決め顔で言われた。絶対に分かるような大人にはならない、と自分の中で堅く誓った。

 因みに朝は斎京さんが作っているが夜は斎京さんと二郎ちゃん交互だ。二郎ちゃんは和食が得意で肉じゃがが特に上手い。斎京さんは二郎ちゃんのテリトリーで戦いたくないと洋食が多い。昨日はチーズハンバーグを作ってくれたが凄く美味しかった。技術的に考えたら二郎ちゃんの方が

美味しいはずなのに、美人のお姉さんが作ってくれたという加点が大きすぎるせいで斎京さんが作ってくれた晩御飯の方が箸がすすむ。それを見て斎京さんが『やっぱりお姉ちゃんの作ったご飯が良いよね』って笑っていたが、重要なのは性別であって姉かどうかは関係無いと思う。そもそも姉じゃないから。


「御馳走様でした! 今日も美味しかったです!」

「そう? なら良かった」

「洗い物は――」

「はいはい、そういう雑事は二郎ちゃんがやりますよ~」


 二郎ちゃんはほとんどの家事を1人でこなしてくれる。俺も手伝うというんだが、『こういう事はお兄さんに任せて、学生は学生の本分を果たしなさいな』とへらりと笑う。なので仕方なく教科書と睨めっこをしている。特にこの1週間は学校を休んでいるから自主学習で遅れを取り戻さないといけない。学校を休んでるのは勿論スキル『弟』の効果範囲が分からないから、斎京さんの傍を離れられないからだ。少なくても家で普通に暮らす程度の距離は平気なようだが、それ以上は未知数だ。チキンゲームをやるには代償が世界の崩壊と大きすぎる。なのでギルマスが国に掛け合ってくれて特別措置で公的な休みにしてもらっている。

 最もそれも昨日までらしいが。今日からは普通に学校に通う事になるらしい。……どうやって?


「弟君、学校に行く準備は出来た?」


 俺は自室で慌てて学ランに袖を通し、教科書を詰め込んだカバンを手に取った。因みに教科書を始めとして服など必要なものは全部俺の実家からギルドの関係者が持ってきてくれた。その際俺の両親にも事情を説明してくれたようで、俺自身は電話で軽く話すだけですんだ。わりと放任主義な所があるから、そんな心配もされなかった。


「それで学校に行くのは良いけど、2人はどうする――」


 リビングに戻るとそこにはいつものパンツスタイルとは違いスカートの斎京さんと、いつの間にかスーツを身に着けた二郎ちゃんが居た。


「え、なんでスーツ?」

「ふっふっふっ、なんでってそりゃこっちの方が出来る男っぽいだろ?」


 ぶっちゃけ二郎ちゃんは黙っていればイケメンなので、確かにスーツを身に纏った今は出来る男っぽい。喋ると残念だけど。この人すぐに熟女の魅力を語りだすから。因みに二郎ちゃんのストライクゾーンは50歳以上らしい。上限は無いという所に恐怖を感じる。


「斎京さんは今日はスカートなんですね」

「この方がお姉ちゃんらしいと家政婦から聞いたから。どうかなお姉ちゃんと呼びたくなった?」

「似合ってはいるけど、それとこれとは別の話かな」


 正直人によるんじゃと思うが、確かに個人的にはお姉ちゃんっぽく思ったのは確かだ。いつものパンツスタイルだとどっちかというとお姉さんって感じだ。でもこの人姉であることに拘っているだけだから姉さん呼びでも普通に喜びそうだけど。でも斎京さんは俺の姉じゃないから呼ばないが。




 結局どうするのか聞けぬまま、3人で家から出て学校へ向かう事になった。二郎ちゃん曰く本当は車で移動する予定だったらしいが、斎京さんが一緒に歩いていく方が姉弟っぽいと主張したことで徒歩になったらしい。まぁ歩いて15分程度みたいだから別に構わないが、学校の徒歩圏内にS級冒険者が住んでるんなんて世の中案外狭いんだな。

 美形の二人が左右に居るせいか妙に視線が突き刺さる。斎京さんに気づいた人もちらほら居るみたいで軽く騒ぎになりかけたが、彼女が一睨みするだけで静まり返った。この人本当に俺以外に対しては塩対応なんだよなぁ……。もっとファンサしてあげればいいのにと思うが、有名人には有名人なりの苦悩もあるだろうし何も知らない俺が口出しする事でもないだろう。


「弟君と一緒に学校に行くなんて、これはお姉ちゃんポイント高いかな?」

「なんですかお姉ちゃんポイントって……」

「100ポイント溜まると弟君がお姉ちゃんって呼んでくれるようになるの!」

「そんな勝手なこと了承した覚えないですけど!?」

「迅君も頑なだな~。硬くするのはアソコだけで良いの――ぐふっ!?」

「二郎ちゃんもこりないね……」


 というか手加減されているとはいえ、S級冒険者の攻撃食らって蹲った後、なんで数秒後には歩き出せてるんだろこの人。大分おかしいよな。因みに手加減ある状態ですら斎京さんの二郎ちゃんへの攻撃は俺の目には映らない。あれ、本当に手加減してる?


「弟君、私納得いってない事があります!」

「はぁ、なんですか」

「どうしてそこの家政婦は二郎ちゃんなんて名前呼びしているのに、お姉ちゃんの事は苗字プラスさん付けなんですか! これではお姉ちゃんよりそこの変態のが弟君と距離が近いみたいで嫌です!」

「えぇ……」


 そんなこと言われてもS級冒険者を名前呼びなんて恐れ多いし。いやA級冒険者でも十分恐れ多いけど、二郎ちゃんはなんかそんなこと気にしなくて良い雰囲気があるんだよね。あと駄目な部分見過ぎて今更敬えない。


「やはり弟君は私のことをお姉ちゃんと呼ぶべきです!」

「結局そこに行きつくのか……」

「迅君もいい加減折れてあげれば良いのにさ~。男が折れていけないのは中折れだ――ぐほっ!?」


 本当に学習しないなこの人。家を出る前には皺ひとつ無かったスーツが皺くちゃになってるよ。というか斎京さんもそれくらいの下ネタじゃ俺は穢れないからね? 一体何歳だと思ってるんだ……。


「う~ん、まぁ距離を感じさせたい訳では無いし燃殲夜さん呼びでどうかな?」

「なるほど、燃殲夜お姉ちゃんと呼んでくれるんですね!」

「適切な距離関係は必要だと思うんだよね燃殲夜さん」

「うぅ……どうして……」


 だから貴方は俺の姉じゃないからです。血縁的にも、戸籍的にも赤の他人だから。これ口にするとあらゆる権力を利用して戸籍上の姉になりそうだから言わないけど。フランクに話しているがS級冒険者様は恐ろしいのだ。それを忘れてはいけない。



 学校につくと朝一で全校集会ということで体育館に移動することに。因みに二郎ちゃんは学校についてすぐ別れたが、燃殲夜さんは当たり前のように俺の傍に居る。背後霊か何かかな? 燃殲夜さんが怖くて誰も話しかけてこないじゃないか。え、元から話す相手居なかっただろうって? はっはっはっ。この話は終わりだ。良いね?


「ダンジョン学の特別教員の橘二郎だよ~。よろしく~! 気軽に二郎ちゃんって呼んでね~」


 全校集会では二郎ちゃんが特別教員として紹介されていた。ああ、だから一緒に学校に来てたんだ。ああこら、にへらって笑うんじゃない。女生徒や女教員達が頬を染めてるじゃないか。黙ってればイケメンなんだから自覚しなさい。モテモテの姿ムカつくので帰ったら燃殲夜さんにお仕置きしてもらおう。まあ俺が何もしなくても勝手に自爆してお仕置きされるだろうけど。

 そして当たり前のように俺の傍に居た燃殲夜さんだが、俺から離れて壇上に立っていた。やっと離れてくれたと安心したのも束の間、当然彼女が真っ当な挨拶をする訳がなく、俺は引き留めなかったことを後悔する羽目になる。


「S級冒険者の斎京燃殲夜よ。先程の輩と違ってよろしくする必要は無いわ。私にとって弟君以外はどうでも良いもの。弟君の傍に居るのが私の役目で、他にすべきことは無いわ。あぁ、弟君――加賀迅君に危害を加えようとしたものは生まれてきたことを後悔させた後に親類縁者まとめて殺すから肝に銘じなさい?」


 頼むから全校生徒に殺気を飛ばすのは止めてください!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の外れスキル【弟】のせいでS級冒険者の美人が俺の姉を自称してくるんですけど!? スノーマン @yukiv3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ