track4「デートのような散歩もの」
「学校は大丈夫?」
「今日は休日なので休みですよ。バイトのシフトも入れていません」
体力は少し戻ったものの、休みのない生活を続けたことで曜日感覚がおかしい。そんな浮世離れした発言を聞いて、助手席から笑い声が聞こえてきた。
近所の公園では味気ないので、日帰りできる大きな公園を目指すこと数十分。目的の公園に到着した。休日なこともあり、家族連れやカップルで賑わっている。閑散としていないのはいいことだが場違い感がすごい。
「私、子供の頃に引っ越したことがあって、その頃に何度か来たことがあるんです。だからこの公園のこと、少しだけ詳しいですよ」
振り向くと、そこには赤いリボンのついた
本当にこの距離感でいいのだろうか。俺たちは今、同行人に見えるか見えないかの距離で歩いている。一目見ただけでは一緒に散歩しているとは思われない気がする。そもそも会話らしい会話もしていないから別々に来ている観光客にしか見えないか。
ここで気の利いたことでも話せればいいのだが、最近の流行は知らないしニュースなんて見ていない。そんな俺の雑談力はゼロ。農夫にも負けるレベルだ。
「さ、散歩は楽しい?」
俺は何を言っているんだ。散歩もなにも、ただ歩いているだけなのに。あたふたしている俺が可笑しかったのか、少女が微笑んだ。
「ふふっ、楽しいですよ」
そう言ってすぐに、少女はハッとして言い直した。
「えっと、
流石に公園で「ご主人様」呼びや語尾に「にゃ」は恥ずかしかったようで、部分的にもごもごと話している。社畜のように労働を強制されていないのだから、嫌なら言わなければいいものを。
「それよりも、元気になって安心しました。会った時は死にそうな顔をしていたので」
「そ、そうか。俺、死にそうな顔だったのか」
そう思われてもおかしくない自覚はある。今は血色が良くなったが、あの頃は顔が土気色。見た目からしてヤバかった。それに生きてはいたものの、死んでいるような状態だった。
「そうだったんですよ……きゃっ」
少女の肩が通行人に触れた。相手は何食わぬ顔で通りすぎていったが、周りを見ると当たってもおかしくない状況。天気予報の確認のために今朝のニュースを見たら、流行病が終息したことで観光客が増えたと報道していた。どうやら間が悪かったらしい。
このままだと、はぐれてしまうのは時間の問題。干支を一周するほどの年齢差で実行するのは気が引けるが、こればかりは仕方がない。羞恥心を捨てて手を繋いだ。
「あの、これって……」
「ほら、はぐれると悪いから。嫌じゃなければこのまま歩こう」
嫌そうな顔には見えない。よかったと安心した瞬間、少女が繋いだ手を離してから指をからめてきた。これではまるで――
「……恋人繋ぎにする必要はないんじゃないかな?」
「で、デートのような散歩だからいいんです。それよりも今の時間は白鳥に餌やりができますよ。あげてみませんか?」
抗議する間もなく、早く早くと腕を引かれて餌売り場へ向かった。
「餌やりは一日二回で、観光客は十分間だけあげられるんです。こーいこーいって白鳥を集めてくれるおじさんがいて、一斉に集まるのは圧巻ですよ」
今は三代目だという雑学を聞きながら時刻を確認すると午後三時。
「だから混んでいたんだね」
「ですね。そのお陰でちょっと得をしちゃいました」
繋いでいる手を握ってくる。どうやら餌やりが出来て得をしたという意味ではなさそうだ。そんなやり取りをしながら白鳥のエサを一袋購入した。何が入っているのか聞くと、地元で取れた米が入っていると答えてくれた。
白鳥への餌やりは何事なく行われている。そう、平和的に。白鳥は対象外だとしても、我が物顔で紛れ込んでいる鴨なんて絶好の獲物だろうに。
「タマは水を飲みに来ていた小鳥を狙って、間違えて水桶に突っ込んだことがあったんだよね」
「えっ? そ、そんなこともありましたね、にゃ」
「あの鴨は狙わなくてもいいのかな?」
「い、今は、その……に、人間なので……」
からかいすぎるのはよくないか。話はそこで切り上げて、しばらく散歩をした後、俺たちは帰路についた。
―――――――――――――――
裏話【この物語の舞台】
読んでいてあの場所だと気付いた方がいるかもしれませんが、今回登場した湖は新潟県
まあ、いつも鴨しか泳いでいないタイミングに行くのですが(笑)
ちなみに地元を舞台にしただけでステマとかダイマではありません。そもそも広告塔になれるほどの知名度は「ほわりと」にはないのだよ、チョコ山くん。
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