たちまち終わる短編
イチゴパウダー🍓
14にしたい男
薄暗い倉庫の床に、男が倒れていた。
「よし、これで終わりだ」
小太りで人の良さそうな顔をした男—ビッグが、手を叩いて埃を払う。
「腹減ったな、トール。ダイナーでも行くか」
背の高い相棒は死体を見下ろしたまま動かない。
「おい、どうした?」
「…これで13人目だ」
トールが呟く。
「はあ?」
ビッグは眉をひそめた。
「お前、数えてたのか?」
「縁起が悪い。13は不吉な数字だ。もう一人やっておきたい」
ビッグは大きなため息をついて、ふくよかな腹を摩った。
「またかよ、トール。俺は腹が減って死にそうなんだぜ?」
「でも13は駄目だ」
ビッグがやれやれといった表情で口を開く。
「いいかトール、迷信やまじないなんてものは悪魔の罠だ。わかるか?」
トールは黙って聞いている。
「神は人間に額に汗してパンを食えと言ったんだ。つまりこの世は楽してハッピーにはなれないように作ってあるんだよ」
トールが少し唸る。
それも一理あるか、という様子だ。
「つまりだ、玄関に変なモノ飾ったり数字に拘った所で何にもならねえ。我らが主は良くも悪くも手を出さねえんだよ。死ぬ気で働いた者のみがハッピーになれる。今日俺たちはよく働いた。もうハッピーだろ?」
「ああ、よく働いた」
トールが答える。
「だろ?」
ビッグが満足そうに頷く。
「だから今日はもう終わりだ。美味いもん食いに行こうぜ」
しかし、トールは首を振った。
「でもやっぱり今日はあと一人始末しておきたい」
それを聞いてビッグは肩を竦めた。
「やれやれ、仕事熱心な奴だ」
「頼む、ビッグ。どうしても14にしたいんだ」
ビッグは相棒の顔を見つめた。
普段は感情を表に出さないトールが、珍しく真剣な目をしている。
「…ああ、分かったよ」
ビッグが観念したように手を上げる。
「でも条件がある」
「何だ?」
「手短に済ませろ。俺の腹の虫がもう暴動寸前なんだ」
「ああ、約束する」
「それから」
ビッグが人差し指を立てる。
「今度は20で止めるなよ?キリのいい数字も縁起悪いとか言い出すんだろ?」
トールの口元がわずかに緩んだ。
「…考えておく」
「こいつめ」
ビッグが苦笑いを浮かべる。
「まあ、長年付き合ってるからな。お前の癖も慣れたもんだ」
二人は倉庫から出ていく。
「ビッグ」
「何だ?」
「説教、ありがとう。たまには聞く価値がある」
「おい、たまにはって何だよ」
「いつもは半分寝てる」
「このやろう…」
笑い声が夜の闇に消えていった。
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