アンナの魔法よろず屋🔮

岩名理子

#1 アンナの魔法よろず屋 プロローグ

 ある街の一角、石畳がところどころひび割れた裏通りに、小さな看板がひっそりと掛かっていた。木製看板には「アンナの魔法よろず屋」と古い焼き印がある。


 陽光は細い筋となって通りに差し込む。小さな鍛冶工房がいくらか立ち並ぶ一帯だったが、アンナのよろず屋の前だけは少しだけ空気が違っていた。通りから一つ向こうの裏通りであるがゆえに、人々がまばらとなる。路地にはいつも風が吹き抜け、埃が光を受けちらちらと舞っている。


 そんな寂れた店を今日も守っているのが、まだ若き女性――アンナである。


 祖母から受け継いだこの店は、かつては貴族までもが訪れるほどの名店だったという。祖母が亡くなり、若きアンナが跡を継いでからは、途端に客が途絶えた。


「まだ年若い娘に魔道具の真贋が見抜けるものか」

「頼りない」

「かつての老婆アンナならともかく」


 そんな言葉を投げつけられ、客のほとんどはため息と共に去っていった。


 アンナは夜な夜な、古い鏡の前に立ち、自分の姿を見つめては悩んでいた。思い出すのは、祖母の厳しくも優しい眼差し。そして最期の言葉。


『アンナなら大丈夫。きっと大丈夫。だから店も名も――受け継ぎなさい』


 祖母と同じ名前を持つアンナ。 

 

 『そうだ、祖母に、なろう』


 決断した彼女の仕事は早かった。

 アンナは祖母のように見える変装用の魔道具を生成した。ブローチ一つで、姿を老女へと変えられる品だ。白髪を結い皺の刻まれた顔。鏡を見ると、祖母に瓜二つ。


 声までは変えられないが、それでも見た目が祖母ならばきっと人は信じるだろう。


「ああ、あの老婆のアンナがまだ健在だ」と。

 

 どうせ来客は、はるばる遠方から凄腕の祖母の話を聞きつけてくる者がメインだ。この店の入れ替わり激しい街である日突然若い女店主が老婆に変わったとて気にする者はいない。特に問題はなかった。

 

 アンナはその日から、昼は祖母の姿で客を迎え、夜は本来の自分に戻って静かに眠る、二つの顔を使い分ける生活を決めた。

 

 こうして、『偽の老婆』が経営する魔法よろず屋になったのだ。

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