第4話 祈りの夜

 広場に立つ村人たちの顔はどこか遠くを見ているようで、まるで意識が別の場所にあるようだった。


 俺は恐怖で震えながらも、無理やり体を動かされ、彼らの列に加わらされた。


 イノシシの頭をかぶった男が祭壇の前に立ち、古びた鈴を鳴らした。


 その音は山に響き渡り、周囲の空気を震わせる。


「祀りものよ、この夜に神へ捧げよ。山の怒りを鎮め、村の安寧を保たん」


 男の声は低く、どこか震えていたが、その言葉は何度も繰り返された。


 そして、目の前に木の箱が置かれた。


 中には、村の古文書と、何か黒くて粘つくものが見えた。


 「これは……?」


 囁いたが誰も答えない。


 その時、不意に俺の胸に激痛が走った。


 胸の辺りを押さえると、指に赤い液体がついた。


 傷がないのに血が出ている。


 次第に、身体の中で何かが目覚める感覚があった。


 それはまるで、山の神が俺の中に宿ったかのような。


 村の祈りが終わる頃、俺はもう以前の自分ではなかった。


 山の怒りと獣の力が俺の中で蠢(うごめ)いていた。


 この夜から、俺の人生は変わる。

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