『カエル』のスキルで『ケロケーロ!』
すずしろ ホワイト ラーディッシュ
第一章 勇者召喚に巻き込まれた件
第1話 勇者召喚
この日、キーノッコ王国の城の地下にある祭儀場で勇者召喚が執り行われました。
多くの魔術師達による儀式の末に、石畳に刻まれた大きな魔方陣がまばゆい光を発すると、5人の勇者達が召喚されました。
召喚されたのは、スーツ姿の男が1人、学生服を着ている男女が1人ずつ、私服姿の若い男女が1人ずつです。
「ようこそ! 異世界より召喚されし勇者様!」
上質な貴族服を着た壮年の男が、満面の笑みで歓迎の声を掛けましたが、勇者召喚された者達は、突然のことに戸惑っていました。
貴族服を着た壮年の男は、勇者達へと落ち着くように声を掛けると、まずは、簡単に状況を説明しました。
ここは、キーノッコ王国の王城で、貴族服を着た壮年の男は、サルーノ伯爵と名乗り、この国の宰相だといいます。
そして、今、この世界では、新たな魔王が誕生したため、魔王を討伐すべく勇者召喚を行った結果、異世界より召喚されたのが、この5人だというのです。
異世界より召喚された勇者達は、こちらの世界へ渡る際に、神より強力な恩恵を授かるといいます。
そして、神の恩恵を確認するという流れになり、それぞれの勇者の前に、厚手の紙が載せられたトレーを持ったローブを纏った者達が立ちました。
その厚手の紙に恩恵が浮き上がるとのことで、勇者達が、指示に従って厚手の紙に手を置きステータスと唱えれば、何やら文字が浮かび上がりました。
しかし、召喚された勇者達は、皆、文字が読めずに戸惑いました。おそらく異世界の言葉を理解できるのも神の恩恵なのでしょうが、文字の読み書きは恩恵の対象外ということでしょう。
サルーノ宰相により、ステータスに記された勇者達の名前と神の恩恵が読み上げられました。サルーノ宰相は、鷹那須時雨のステータスを見た時だけ、眉を顰めていたのが気になります。
勇者達5人の名前および神の恩恵は以下のとおりでした。
鈴木冬弥 ジョブ;ソードマスター(剣聖) スキル;ハイヒール
木村定春 ジョブ;サンダーマスター(雷聖) スキル;毒無効
鷹那須時雨 ジョブ;なし(空白) スキル;カエル
佐藤夏海 ジョブ;セイントマスター(聖女) スキル;ユニーク結界
田中千秋 ジョブ;アイスマスター(氷聖) スキル;亜空間収納
ジョブとは、モンスターと戦うための力を授かる恩恵で、戦士系、魔法使い系など多々存在し、それぞれのジョブに特化した成長が期待できるそうです。
中でもマスター系のジョブは、通常ならば幾度かのジョブチェンジを繰り返してようやく辿り着くという最上位クラスのジョブで、短期間で高成長を遂げることができるといいます。
ゆえに、この国では、ジョブを極めた者を称えるため『聖』を付けた称号が与えられるとのことです。
つまり、勇者は、最初から最上位クラスのジョブを授かり、さらに有益なスキルをも授かるため短期間のうちにどんどん強くなっていくチートな存在ということです。
「うむ、1人を除いて、マスタークラスのジョブを授かるとは、さすがは勇者様方ですな。して、唯一ジョブを授からなかったタカナス殿ですが、カエルという聞いたことのないスキルを授かっておられるようす。いったい、どのようなスキルなのか確かめたいので、一度、スキルを使ってみてはもらえませぬか?」
「はぁ……」
サルーノ宰相に『カエル』のスキルを使うように言われて、スーツ姿の鷹那須時雨は、少し困った顔で返事をしました。
「カエル!」
ぼふんっ!!
皆の注目を浴びる中、鷹那須時雨は、カエルと唱えると一瞬にして茶色いカエルの姿に変身しました。元の身長の3分の1くらいですが、カエルにしてはとても大きな体です。
「ケロケ~ロ!」
「ぶはっ! マジかよ! カエルになりやがった!」
鷹那須ガエルが、鳴き声を上げると、金髪で私服姿の木村定春が、思わず吹き出して大爆笑しました。ほかのみんなも笑っています。
「こ、これはまた……、お、驚きのスキルで……」
サルーノ宰相が、笑いを堪えながら何とか言葉を絞り出しました。その場にいた護衛達や魔法使い達も声を殺して笑っています。
「タカナス殿、もうスキルを解かれてもよろしいですよ」
「ケロ~……」
サルーノ宰相にスキルを解くよう言われましたが、鷹那須ガエルは、困ったような鳴き声を上げてサルーノ宰相を見上げました。
「……もしかして、スキルを解けないのですか?」
「……」
「ぶふっ! マジかよ! カエルになって戻れないってか? くっははははははは、最高に笑わせてくれるぜ」
サルーノ宰相の言葉に、鷹那須ガエルが無言でコクリと頷くと、またしても木村定春が大きく噴き出して大笑いしました。もちろん部屋にいたみんなも大笑いです。
皆の笑いを一身に受けた鷹那須ガエルは、サルーノ宰相が呼んだ神官と思しき人に状態異常解除の魔法を使ってもらい、ようやく人に姿に戻ることが出来たのでした。
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